2024年12月17日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年12月17日

 肩透かしの連続に株価も停滞している。一気に上がった上海総合指数は10月8日をピークにほぼ横ばいだ。このままでいくと、今回は株価が倍増するような“爆上げ相場”にはならなさそうだ。むしろ、このまま熱が冷めて、すぐに下げ相場に転じる可能性のほうが高い。

 「いやいや、そんなことはない。中国政府が景気対策の切り札を切らなかったのは、トランプ新政権の対中政策を見極めるため。もしトランプが宣言通り、就任直後に関税引き上げを実行したら、ただちに大規模対策が実施され、中国経済は加熱するだろう」

 先日、ある中国企業関係者と話をしていたら、このような説を聞かされた。切り札温存説を彼が本気で信じているのか、それともただのポジショントークなのかは判断がつかなかったが、このような見立てが一定の影響力を持っているからこそ株価はまだ横ばいにとどまっているのだろう。

依然としてイノベーションに注力する習近平

 もっとも、経済成長がさらに大きく減速でもしないかぎり、習近平政権に方針転換はなさそうだ。

 以前の記事でも指摘したが、習近平政権は「新しい質の生産力」、すなわちイノベーションで経済危機を乗り切るという姿勢で一貫している。「さすがにそろそろ足元の経済がやばいでしょ。大規模な景気対策を打つでしょ」というのは外野の勝手な思い込みで、俯瞰的に見ると習近平総書記はたんたんとやりたいことを進めているだけなのだ。

 今秋の一連の対策を見ても、株価維持、金融機関や地方政府の破綻予防といった手は打っているものの、財政出動については慎重な姿勢は変わっていない。金融機関の連鎖倒産といった破滅的な事象さえ避けておけば、後は電気自動車(EV)や人工知能(AI)などのイノベーションが結果を出してくれるという考えなのではないか。

 その構想通りに事が運ぶのかは未知数だが、たとえうまくいったとしてもイノベーションによって生み出された製品、サービスを誰が買うのかという問題に直面する。中国は新興技術分野を含めて、自国の需要を超えた過剰生産能力を抱えている。イノベーションでさらに生産力が高まれば、輸出するしかない。

 世界最大の市場である米国は第1期トランプ政権、バイデン政権とハイテク分野における中国製品の流入を制限してきた。第2期トランプ政権でもこの流れは変わらない。となれば、欧州や日本、あるいはグローバルサウスがターゲットとなるが、未来の産業と雇用を支える新興産業で、中国が総取りするようなことになれば強く反発するだろう。

 振り返ってみれば、第1期トランプ政権から始まった経済分野における米中の対立、デカップリングや安全保障に基づく輸出規制は米国が主導したものであり、その他の国々からすれば経済を考えれば中国との関係はこのまま続けたいのだが、米国に迫られてやむをえず、という側面が強かった。

 しかし、第2期トランプ政権では違った状況が生まれそうだ。欧州、日本、グローバルサウスの国々が中国製品の輸出ラッシュに抵抗しようと、米国に迫られたからではなく自発的な抵抗を見せる展開が予想される。

 出口が見えない中国経済の低迷、これに習近平政権がどう立ち向かうのか。その方針は中国経済のみならず、国際関係にも大きな影響をもたらすことになるだろう。

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