迷走が予想される対外政策と世界情勢
こうした状況下では、外交・安全保障の現実的なメカニズムに疎く、自己流解釈と感情に強く左右される大統領を支える集団が存在しないどころか、アメリカの骨格を支える巨大国家組織の運営自体が、停滞に見舞われる可能性が高い。それはアメリカの世界的影響力に一時的、あるいは最悪の場合は取り返しのつかない打撃を与え、各所に混乱をもたらすであろう。もっとも、これを好都合と捉え、積極的に利用しようとする勢力にとって、この事態は好ましいものとなるであろう。
その代表格がロシアである。個人的な好悪感情、特に相手国の最高指導者へのそれで国家間外交を行うトランプにとって、プーチンという専制的権威主義の権化とは、以前から親和性が高い。
ロシアはそこに付けこみ、トランプ新政権の4年間で、対ウクライナ侵略戦争で疲弊した外交的・軍事的ポジションを建て直し、次の侵略行動(ロシア側からみれば自らの勢力圏回復)の準備期間とするであろう。ゆえに北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長は「危機が全速力で我々に迫っている」(12月12日)と警告し、もはや欧州は戦時体制に移行しつつある。
一方で、最も「割を食う」可能性が高いのは、非白人国家で、すでに経済・安全保障の両面で対立関係にある中国である。2017年からの第一次トランプ政権下において、経済面では対中高関税や投資規制などの導入、外交・安全保障面ではインド太平洋へのシフト拡大といった形で、中国の台頭を直接的に抑止しようとした。
トランプは今回の大統領選挙でも対中強硬策を強く主張している。来年の政権成立以降は、米国内の混乱や自己矛盾を対外転嫁する目的も相まって、中国が明確な標的となることは、ほぼ間違いないであろう。
就任式への招待が意味するもの
こうしたなかで今月中旬には、来年1月20日開催の大統領就任式に、中国の習近平国家主席を招待したという報道が流れた。通常、大統領就任式には、各国大使の出席が慣例で、国務省記録では1874年以来、外国首脳が参加した例はないとされる。だがトランプ側は他にも、アルゼンチンのミレイ大統領、イタリアのメローニ首相、ハンガリーのオルバン首相、エルサルバドルのブケレ大統領といった、自らと親和性の高い各国指導者たちを招待していると報道された。
トランプ側近は、同氏が「世界の指導者を招待する熱意が強い」と述べており、外国首脳の招待で、自らの就任式を権威付ける目的があると考えられる。この権威主義的性向は、国防総省の抵抗で実現しなかったが、第一次政権時にワシントンで軍事パレードを実行しようと画策したことからも明らかである。しかし、大統領就任式という場に、最も対立するはずの中国の最高指導者である習を招いたことは、何を意味するのであろうか。