2024年12月7日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年11月8日

 2024年11月6日、共和党のドナルド・トランプ前大統領(第45代)が選挙戦で勝利をおさめ、第47代大統領として返り咲くことが決定した。共和党は、同時に実施された上院改選でも多数派を掌握し、下院改選でも過半数を制する勢いで、来年1月に発足するトランプ新政権は、盤石の基礎で始動することになる。

 このトランプ再選とは、20世紀における理念と知性に基づく、いわゆる「アメリカン・デモクラシー」の衰亡であり、一方では為政者と大衆の欲望が共鳴して民主制の名の下に成立する古典的な「暴民政治」が、装いも新たに21世紀の「アメリカン・デモクラシー」として降臨したことを意味する。それが今後のアメリカの内政・外交だけでなく、世界にも大きな衝撃を与えることは容易に想像できるし、この不安定性と不確実性は、トランプ個人の資質・性格によって大きく増幅するであろう。

第二次トランプ政権は、中国とどのような関係を築くのか((Barks_japan/Getty Image・ロイター/アフロ ・divds)

 特に外交・安全保障面では、適切な経験や知見を持った専門家が、次期政権に集う可能性の低い点が懸念される。前回のトランプ政権は、外交・安全保障の現実的なメカニズムに疎く、自己解釈と感情に強く左右される大統領を、国家への義務感から就いた補佐官や閣僚たちが何とか支えてバランスを取ることで、持ち堪えてきた。しかし4年間で3人の安全保障担当補佐官が更迭されており、その当事者たちの回想を読む限り、当時の状況は常軌を逸している。まして次期政権に専門家たちが集わないとすれば、混乱に拍車がかかるであろう。

 実のところ外交面における「アメリカ第一主義」とは、アメリカの宿痾の一つとも言える「孤立主義」の看板を掛け換えたものに過ぎない。それは20世紀の世界帝国として君臨したアメリカの影響力を、大きく削ぐものである。

 この結果、既存の世界秩序はさらに大きく動揺するであろうし、もはや修復不可能なものとなる危険性もある。これは同時に、アメリカの敵対者たちにとっては、予測不可能な対応をしかねないトランプという危険要素はあっても、長期的趨勢としては望ましいものであることは間違いない。

中国の反応

 こうしたトランプ新政権下のアメリカの動きを、もっとも直接的に受けるであろう国の一つが中国である。2018年からのトランプ政権下では、米中関係を戦略的に管理しようとする理論型の外交・安全保障専門家に支えられたオバマ政権期とは異なり、中国の台頭をきわめて直接的な行動によって抑止しようとした。それは、経済面では対中高関税や投資規制などの導入、外交・安全保障面ではインド太平洋へのシフト拡大といった形で、露骨に顕在化していった。

 このため中国側は、今回の大統領選に表面上は平静を装いつつ、実は高い関心を示していた。仮に民主党のハリス候補が当選すれば、従来のバイデン政権の「管理された競争」という対中政策の継続は明白であった。それは経済と安全保障の両面で対中包囲が緩むことはないが、ある程度の予見可能な範囲で推移するため、中国も対応が容易である。しかしトランプ新政権となれば、選挙公約としていた高関税などの対中強硬策だけでなく、予見しかねる事態や反応が飛び出してくる危険性が高い。


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