習主席発言を機に、中国国内では「沖縄の住民の大半は独立を望んでいる」「沖縄の日本帰属は国際法上未確定」といった主張がSNS上で拡散され、中国遼寧省の大連海事大学に「琉球研究センター」が設立されることも決まった。24年9月には、設立準備会合と琉球問題をテーマにしたシンポジウムが開かれ、シンポでは中国の影響下にあった琉球を、日本が一方的に自国領に編入した……といった歴史観が展開されたという。
さらに翌10月には、新興国でつくる「BRICS」の会議に出席するためロシアを訪問した習主席はプーチン大統領と会談し、両氏はBRICSを公正な世界秩序を維持する重要な柱と位置づけ、第2次大戦終結80年の2025年に向け、正しい歴史観を広めるべきだとの意見で一致したという。ここまで続けば、中露が北方領土と尖閣諸島、そして沖縄を巡って日本に領土問題の法律戦と歴史戦を仕掛けてくることは確実と言っていい。
日本にとって悪夢の2025年夏
戦時中、中国大陸で細菌兵器の人体実験を行うなど関東軍731部隊の非道を描いた中国映画「731」が、25年7月31日に全世界で一斉公開されることが発表されている。人間をマルタ(丸太)と呼び、悪業を繰り返した部隊に対し非難が集中することは確実だ。
呼応するように反日色の強い政府が誕生することが確実な韓国からは、関東大震災(1923年)の混乱の中で、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などといったデマを背景に、多くの朝鮮半島出身者が殺害されたことを糾弾する動きが、震災が発生した9月1日に向けて活発化する可能性がある。すでに韓国では「1923関東大虐殺」という映画が公開され、25年には日本での上映も予定されているからだ。
そして中露が対日戦勝記念日とする9月3日を迎える。すでに北京での式典にプーチン大統領が招待されるとの報道もあり、中露で共催し、領土問題などサンフランシスコ講和条約体制への疑義を示した後で、プーチン大統領は意欲を示していた北方領土への初訪問を実行するかもしれない。もし、これらの事態が現出するとなれば、日本にとって悪夢の2025年夏となってしまうだろう。
あきれる政府の対中政策
ロシアのウクライナ侵略からまもなく3年となる。本稿ではその間に深化した中露の連携を取り上げ、領土問題など想定される歴史戦を提示してきたが、こうした状況下で24年11月、石破茂首相と習主席が会談したのである。
日中間の懸案である①東シナ海における軍事圧力の強化、②日本人学校の児童を殺害した犯人の動機、③日本産水産物の輸入再開時期の明示、④スパイ容疑で拘留されている日本人ビジネスマンの解放――などについて習主席から言及がなかったにもかかわらず、「非常にかみ合った意見交換だった」と述べた石破首相の発言は耳を疑わざるを得ない。
ロシアと歴史認識をすり合わせ、サンフランシスコ講和条約体制を拒否する中国は、対日姿勢を一時的に改善する動きがあったとしても、米欧とともに今の国際秩序を維持しようとする日本とは、対立の道を選択したと考えざるを得ない。