経営者はイノベーション、グローバル人材の必要性を口にし、偏差値の高さを好む傾向です。しかし、そこに未病うつがあり、時として症状が出てくると、せっかくの人材も低い生産性しか出てこない。では打たれ強い人材ならいいのかと聞かれますが、そうではなくメンタル的にバランスがとれるようにしていく対策をする。これを忘れてはいけない。私が常に強調していることです。
論文では、そのような未病うつへの学習をしない経済界の現実を指摘しました。メンタルヘルスとか精神衛生、産業保健とかの話をすると経営者は逃げて行きます。今、問題だと騒いでいるのは私も含め、保健衛生に関わる人たち。アプローチが稚拙だと経営者はソッポを向いてしまうのです。
そこで未病うつという聞きなれない言葉で、医者の範疇外になる潜在的なうつ予備軍たちへの対策の必要性を論文にしたわけです。未病うつの対策を講じることで、社員には能力開発のチャンスが生まれ、経営陣にとってはイノベーションへとつなげることができる。今回の論文をピックアップしたのが経済産業省の管轄である経済産業研究所であり、厚生労働省ではないことは注目すべきです。
関沢:今回の論文のテーマは大きく言えば2つあると思います。1つめは、未病うつという病気とまでは言えないうつを取り上げて、その隠れた経済的損失や、本格的なうつ病の潜在的予備軍としてのリスクを指摘したことです。もう1つは、これは未病うつだけでなく本格的なうつ病にも当てはまりうる話ですが、民間企業の活力を使って、薬物療法以外のうつへの取り組みを強化していくべきことを提言していることです。私自身は後者の方が実は大きな話だと思っています。
今回の論文でも触れられていますが、未病うつや軽度のうつ病に対する抗うつ薬の投与は効果がないのではないかという論争があります。仮に抗うつ薬がこうした状態の人々に効果がないとしたら、今後大きな問題になる可能性があります。特に気になっているのは労働安全衛生法の改正問題です。労働安全衛生法の改正案が国会に提出され、この法案が成立すれば、多くの企業がメンタルヘルス検査を実施することになりますが、この検査によって軽度のうつ病の人々が顕在化してくる可能性があります。仮に、こうした人々に対して抗うつ薬が効果がないとしたら、日本におけるうつ病に対する治療は抗うつ薬中心ですので、とても心許ないことになります。