中国人の精神疾患者数は1億人以上。このうち、うつ病は5,500万人、重度精神障害は1,600万人といわれる。人民日報のWeb版である「人民網日本語版」が2011年10月に報じた統計データ(15歳以上)によると、精神疾患の割合は17%。うつ病が約5%、不安障害が約5%、薬物・アルコール依存症が約5%、重度精神病は1%とした。ややデータが古いが、現在はさらに増大していると推測できる。精神疾患に対する知識不足と対応できる医師やカウンセラーの絶対的な不足に加え、都市部と農村部との格差など多くの課題を抱えている。上海でEAP(従業員支援プログラム)事業を展開する上海馨励健康信息咨洵有言公司の張正波CEOに中国におけるうつ病の状況と対応策などを聞いた。
張 正波(チャン・チェンボオ)
1962年生まれ。1984年、西安公路交通大学卒。同大職員を経て1987年交通部(日本の国土交通省に相当)に入り、北京にて交通部管轄の大学ネットワーク構築に従事。1989年天安門事件の発生で将来を不安視し、米国への渡航目的で1992年来日。日本に魅了され日本語を習得し富士通、日本ヒューレット・パッカードに勤務。98年独立しソフト開発企業を中国、日本に設立。2008年上海でEAP事業に参画。武漢理工大学客員講師、上海交通大学ソフトウェア学部顧問。
うつ病など“恥じるべき”とみる社会意識
―― 中国でうつ病が増えている要因をどのようにとらえていますか。また、精神疾患の現状についても教えてください。
張:中国で社会問題となっているのは自殺者数の多さです。私が上海でメンタルヘルス事業を展開しようと考えたのも、自殺者を減少させる対策に取り組むためです。中国の自殺者数は年間で35万人、このうち、うつ病が原因とされているのが25万人といわれています。これを日本の自殺者数(年間約27,000人)と比較してみても、深刻な問題であることが分かると思います(中国の人口は日本の約10倍)。
従業員数1万人以上の企業では、年間に1人か2人の自殺者が出ている。アイフォンを生産する台湾系企業の富士康集団が2010年に13件もの自殺者(含む未遂)を出したことは広く知られています。また、これらの沿岸部にある企業へ出稼ぎに出た農村部の留守家庭でも主婦の自殺が報道され、春節(旧正月)で帰郷した青年が塞ぎ込んでしまう事例が数多く報告されています。