2024年11月21日(木)

うつ病蔓延時代への処方箋

2014年3月14日

 宗先生と渡部さんの論文はこの問題に対する解決策の方向を提示しているものです。この論文では運動、ITを活用した認知行動療法、サプリメントなど、未病うつに対する取り組みとして、日本では新しい、しかし、イギリスなどでは既に行われているアプローチを紹介しています。ただ、ここで紹介されているものが本当に効果があるかどうかについては、運動や認知行動療法を除くとまだエビデンスに乏しいので、ランダム化比較試験と呼ばれる検証法を積極的に行うことによってエビデンスを明らかにし、効果があるものは積極的に使っていくことが未病うつや軽いうつ病への具体的な対策となるはずです。

渡部:ドイツで導入されている森林浴のほか、温泉療法などオプションはかなりの数になります。これをどうやって整理していくのかも問題になります。

関沢:効果があるものとないものを選り分けていく作業が行われる必要があります。世の中にはうつに効果があると謳っているものが山のようにありますが、その多くは効果が本当にあるかどうかが検証されていません。効果がまだ検証されていないものについて、ランダム化比較試験を通して効果検証を行えば、うつで悩んでいる人は、自分が何を行ったらいいか、何を行うべきでないかについて貴重な情報を得られることになります。しかし、残念ながら、宗先生と渡部さんの論文で提案されている取り組みの多くは、ランダム化比較試験による厳密な検証が行われにくいという問題があります。

 薬やトクホ(特定保健用食品)は、効果があれば開発企業に利益が生じるので、企業が研究開発費を投じて検証するインセンティブがあります。これに対して、例えば、魚の油を摂取することがメンタルヘルス上望ましいかどうかという検証を行うインセンティブは、知的所有権が存在しないこともあって、個々の企業には乏しくなります。しかし、こうした検証は国民全体にとっては望ましいことなので、公的な研究機関や国がもっと積極的に関与する必要があります。

渡部:見方を変えると、未病うつ対策の整備は、新産業を創設するようなものともいえます。薬ではなく違う方法でメンタルを予防し改善するわけですから。その方法について検証し、エビデンスを明確化する場合に国が補助金を出していくという考え方もできるのではないでしょうか。民間の活力を使う方が、効果が見えやすいと思います。

(後篇へつづく:3月下旬公開予定)

[特集] 「心の病」にどう向き合うべきか


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