さらに言えば、もっと軽度な抑うつの人たち、つまり未病うつの人がどのくらいの数になるのか、これは計り知れません。患者調査で出た数値の5倍から6倍になると指摘する学者もいます。普段は元気で社会的に活躍している人も時には抑うつ状態になる。バリバリ仕事をこなして、やがて燃え尽き症候群になる人もいます。
こうした潜在的な抑うつ症状をもつ人を入れると、うつで悩む人は、成人の2人に1人になってしまうという見方もできてしまう。もちろん広義に見た場合であり、推測の域を出ませんが、それほど重大な問題を抱えているといえるでしょう。
関沢:未病うつという言葉は、「Non-clinical depression」や「subthreshold depression」の和訳で、大うつ病に至らないうつ状態を指します。Non-clinical depressionという概念は以前から存在していますが、適切な日本語訳がこれまではありませんでした。今回、論文を掲載するにあたって、日本語訳が必要だということで出てきたのが「未病うつ」という言葉です。
精神疾患の診断基準のDSMによると、大うつ病の定義は、9つの条件のうちの5つ以上を満たし、かつ、そのうちの1つは抑うつ気分と興味の喪失の2条件のうち1つとなっていて、それを踏まえると、未病うつは、9つの条件のうち2つ以上5つ未満まで満たし、そのうちの1つは抑うつ気分と興味の喪失の2条件のうち1つということになると思います。
薬以外の治療法を検証・整備すべき
―― 論文では、「軽度の抑うつ症状を呈するものの診断基準は満たさない未病うつによる経済的損失は大きく、将来のリスクも無視できない。介入の重要性が叫ばれている」と指摘されています。
渡部:経済界では、イノベーションが流行語のように使われています。これとリーダーシップでしょうか、この2つが社会のバズワードとしてシンポジウムが開かれ、多くの書籍が出版されています。ただ、これらの実行にはしっかりとしたメンタリティーが不可欠です。