英下院で難民受け入れ制度の変更計画について説明するマムード内相(17日、ロンドン・ウェストミンスター)
ケイト・ワネル、政治記者
イギリスのシャバナ・マムード内相は17日、イギリスの難民受け入れ制度を抜本的に変更する計画を議会下院で説明し、「制御不能で不公平」な現行制度を変える意義を強調した。政府案では、いったん認められた難民資格は、現行の半分の2年半ごとに見直される。難民資格申請者への公的住宅支援は打ち切られる。政府はイギリス入国のための「安全で合法的なルート」を新たに定め、人数制限も設ける方針。下院ではこの政府案に対し、与党・労働党の一部から批判が出る一方、最大野党・保守党はおおむね支持する姿勢を示した。
難民資格申請者の滞在についてイギリスではこの数カ月、国内各地で地元住民による抗議行動が相次いでいる。こうした中、マムード内相は下院で、「この危機に対処できなければ、今まで以上に多くの人が、怒りで始まり憎悪に終わる道へと引き込まれてしまう」と警告した。
内務省は同日、「秩序と制御を回復:政府の難民と送還政策について声明」と題した30ページの政策文書を下院審議に先立ち公表した。
政府案によると、難民資格を与えられた人のイギリス在留資格は一時的なもので、その資格は30カ月、つまり2年半ごとに見直される。現行制度では、難民と認められた人は当初5年間、滞在が認められる。
提案では、難民としてイギリス滞在中に本国が安全だと判断された場合は、本国に帰国させられる可能性がある。
政府案ではさらに、難民がイギリス永住権を申請ようになるまでにはイギリスに20年間、滞在しなくてはならない。これは、現行の5年間の4倍にあたる。
子供のいる家族が亡命を拒否された場合には、退去を促すためのインセンティブが提供されるが、任意に退去しない場合は強制送還される可能性がある。
収入や資産を持つ亡命希望者は、イギリス滞在費用の一部を負担しなくてはならない。
こうした政府案を下院に説明したマムード内相は、この変更によって、「家族から月800ポンド(約16万円)とアウディをもらっている亡命希望者が、納税者の負担で住宅を無料で提供され、裁判所には政府は何もできないなどと言われる、不条理でばかげた状態が終わる」と述べた。
難民資格申請者が宿泊費の代わりとして、結婚指輪など思いのこもった品も没収されるのではないかと言われている件については、内務省関係者がこれを否定した。
難民資格が認められなかった人の強制送還を容易にするため、家族として生活する権利を定める欧州人権条約(ECHR)のほか、イギリス法の「現代奴隷法」について、政府は適用方法を変更する方針。
内相はこのほか、アンゴラ、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、ナミビアの3カ国について、各国政府が自国民の強制送還について協力姿勢を改善しない限り、ビザ発行を停止すると述べた。
さらに、イギリスへの安全で合法的なルートを人数制限つきで設ける計画について、任意団体や地域団体が新規到着者の受け入れと支援に「より大きく関与する」ことになると内相は説明した。
今回の政府案には、与党議員の間からも懸念が出ている。与党・労働党のナディア・ウィットム議員はこの計画を「ディストピア的」で「恥ずべきもの」と批判した。
一方、最大野党・保守党は慎重な姿勢を示しつつ、おおむね歓迎した。保守党のケミ・ベイドノック党首は、政府案を「前向きな小さな一歩」と評価した。しかし、イギリスが欧州人権条約を離脱しない限り、内相の取り組みは「失敗する運命にある」と警告した。
ベイドノック党首は、労働党の一般議員が政府案を支持しない場合、保守党の票が「役に立つ」かもしれないとして、超党派協力を呼びかけた。
キア・スターマー首相率いる労働党政権はこの1年間、労働党議員の反対を受け、福祉削減や冬季燃料手当削減など一部の政策を否応なく撤回してきた。
野党・リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は、マフムード内相の「強い言葉遣い」を称賛。まるで内相が、リフォームUKに入ろうとして「オーディションをしているようだ」とソーシャルメディアに書いた。労働党の一般議員や欧州人権裁判所の反対を受けて、内相の計画が生き残るかどうか「真剣に疑っている」とも書いた。
他方、野党・緑の党をイングランドとウェールズで率いるザック・ポランスキー氏はBBC番組「ニューズナイト」で、「すべての労働党議員は自分の良心に従うべきだ。これは極端で非人道的で、政府は臆病者の集まりだ。政府は年金受給者を標的にした。障害者を標的にした。今度は戦争や紛争から逃れる人々を標的にしている」と、スターマー政権を強く非難した。
内務省によると、2025年にイギリスへの亡命を申請した人は、これまでで11万1800人に上る。そのうち39%が小型ボートで到着し、37%が合法的な手段で到着後に亡命を申請した。
政府は、今回の計画の目的は、イギリスに来る人の数を減らし、合法的に滞在する権利を持たない人の送還を増やすことだと説明している。
与党議員たちの批判
これまでに約20人の労働党議員が、労働党政権によるこの計画を批判している。
ノッティンガム・イースト選挙区のウィットム議員は、政府が「想像を絶する苦痛を耐えてきた人たちの権利と保護を引き裂いている」と非難した。
フォークストン・アンド・ハイス選挙区の議員で移民弁護士のトニー・ヴォーン氏は、難民資格を一時的なものにすれば、「永遠に中途半端な状態と、疎外感を生んでしまう」と述べた。
リーズ・イースト選挙区のリチャード・バーゴン議員は、この措置は「道徳的に間違っており」、労働党支持者を「遠ざける」ものだと主張。「数カ月後に方向転換するよりは、現時点でそのことを認めた方がいい」と述べた。
他方、労働党議員の間には、マムード内相を支持する声もある。
エディンバラ・イースト・アンド・マッセルバラ選挙区のクリス・マリー議員はBBCラジオに対し、制度は公平でなくてはならず、「そうでなければ崩壊してしまう」と指摘。「(難民制度の崩壊を)受け入れるなど、進歩的とは程遠いことだ」と話した。
ブラックリー・アンド・ミドルトン・サウス選出のグレアム・ストリンガー議員は、内相が「正しい道を進んでいる」と評価。マムード内相が労働党議員と「妥協」に達するだろうとしつつ、「欧州人権条約を離脱しなければ、すべてが無駄になるかもしれない」と付け加えた。
下院審議ではほかに、野党・自由民主党のマックス・ウィルキンソン議員(内政広報担当)が、内相は「過激な言葉で分断を煽っている」と非難した。
これに対してマムード氏は怒りもあらわに、「この国を歩いて回って、移民と亡命制度の問題が全国で生み出している分断を目にしないなどという、そんな特権が自分にあったらいいと思う」と反論した。内相は、自分自身が頻繁に人種差別的な罵倒を浴びせられ、「国に帰れ」と侮辱されているのだと明らかにし、「亡命の問題がいかにこの国を分断しているか、自分の個人的な経験と自分の選挙区の有権者の経験から、知っている」のだと強調した。
下院審議後にマムード内相はBBCに対して、難民制度の変更は自分にとって「道徳的使命」なのだと話した。
「この議論に勝てなければ(中略)亡命制度の存在自体について国民の支持を失い、結果としてこの国の素晴らしいものを失うことになる」、「亡命制度そのものに対する国民の支持を、損なうつもりはない」と、内相は強調した。
内相は、一部の労働党議員が政府案に懸念を抱いていることを認めたが、「同僚の大多数は私に同意している」と強調した。
英慈善団体・難民評議会のエンヴァー・ソロモン最高責任者は、たとえ制度を厳格化しても人が「自分の命を守るために逃げる」のを阻止できないと述べた。
ソロモン氏は、大勢がイギリスに来るのは亡命規則が理由ではなく、その人たちが英語を話すから、あるいは家族がイギリスにいるから、もしくはイギリス国内に自国出身者のコミュニティーが存在するからだと説明した。
「この国にそういうコミュニティーがあるのは、歴史的なつながりがあるからで、この国がかつて植民地主義の大国だったからだ」とも、ソロモン氏は付け加えた。
(英語記事 Mahmood defends overhaul of 'out of control' asylum system)
