予算案の入った「レッドボックス」を掲げるレイチェル・リーヴス英財務相(26日、ロンドン)
イギリスのレイチェル・リーヴス財務相は26日、秋季予算案を発表した。年間260億ポンド(約5兆3000億円)の増税が盛り込まれ、野党は約束を破ったとして強く批判。リーヴス氏の辞任を求めている。
与党・労働党が世論調査で支持を落とし、キア・スターマー首相の指導力に疑問が投げかけられるなか、リーヴス氏には金融市場を動揺させることなく、生活費に不安を抱える有権者と労働党議員に受け入れられる予算を提示するよう、圧力がかかっていた。
リーヴス氏は、「普通の人々に少しだけ多く負担してもらうよう求めている」と説明。一方、最大の負担は「最も余裕のある人々」にしてもらうとし、不動産や貯蓄利子への増税を発表した。
これに対し最大野党・保守党は、さらなる増税を求めないという約束を破ったリーヴス氏は辞任すべきだと主張した。
こうしたなか、政府とは独立して財政を監督している予算責任局(OBR)は同日、イギリス経済の成長率が来年以降、従来の予測よりも鈍化するとの見通しを示した。
予算案では、所得税と国民保険料の適用基準の凍結をさらに3年間延長した。これにより、数百万人がより多くの税金を支払うことになる。
一方、200万ポンド(約4億円)を超える不動産の所有者には、2028年4月から固定資産税に加え、年間2500ポンドが新たに課税される。500万ポンドの物件では、この額が7500ポンドに引き上げられる。
また、電気自動車(EV)には1マイルあたり3ペンス、プラグインハイブリッド車には同1.5ペンスの走行税を新たに導入する。オンライン賭博の課税率も15%から25%に引き上げる。
リーヴス氏は、所得税などの基本税率を引き上げる代わりに、数十の小規模な増税と税率の凍結で歳出計画の穴を埋めることを選んだ。昨年の予算発表では、こうした措置は「働く人々に打撃を与える」と述べていた。
財務相として2回目の予算演説でリーヴス氏は、労働党政権下では「無謀な借り入れ」も緊縮財政への回帰もないと説明。この予算は「公正な税制、強固な公共サービス、そして安定した経済のためのものだ」と語った。
税率の凍結については、「この決定が働く人々に影響を与えることは承知している。昨年そう言ったし、今それを否定するつもりはない」と述べた。
そして、「私は皆さんに負担をお願いしている。しかし、その負担をできる限り低く抑えることができる。なぜなら私は今日、税制をより公平にするためにさらなる改革を行うからだ」とした。
そのうえで、付加価値税(VAT)や所得税の税率、国民保険料を引き上げないという労働党の選挙公約を守ったと強調した。
議会後には記者団に対し、「普通の人々に少しだけ多く負担してもらうよう求めていることは認識している。しかし、抜け穴をふさぎ、最も余裕のある人々により多く負担してもらうことで、その負担を可能な限り低く抑えることができた」と述べた。
生活費対策としては、来年4月以降、公的扶助の増額を第2子までとする上限が撤廃される。
リーヴス氏は、前政権の保守党が導入したこの政策について、「家族の規模にほとんど影響を与えず、福祉費も削減しなかったが、代償を払ったのは子どもたちだ」と指摘。上限撤廃により、45万人の子どもが貧困から抜け出すと述べた。
また、前政権が電気料金に上乗せしていた環境関連の課徴金を撤廃することで、1世帯当たりの請求額が150ポンド削減されると語った。
今回の予算案では、2029年度から2030年度にかけて260億ポンドの増税が見込まれている。OBRは、これによって税収は2030年度から2031年度に国民所得の38%に達し、過去最高になると指摘した。
また、2031年までに納税者のほぼ4人に1人が、一部の税金を高い税率で支払うと試算している。
増税受け、リーヴス氏は「辞任すべき」と保守党
予算案に対する答弁で、最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、労働党は「福祉党」に改名すべきだと述べ、「この予算がもたらすものは、増税と制御不能な歳出だけだ」と付け加えた。
また、この予算はリーヴス氏にとって「完全な屈辱」であり「辞任すべきだ」と非難。「昨年、彼女は400億ポンドの増税を行い、イギリス史上最大の税収強化を実施した」と振り返り、こう続けた。
「彼女はこれ以上増税しないと約束した。それが一度きりだと誓った。今後は安定をもたらし、成長で全てをまなかうと言った」
「そして今日、彼女はそのすべての約束を破った」
野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、「労働党は生活費危機への対応と経済成長を約束して選挙に勝った。しかし、これはそのどちらも果たせなかった2度目の予算だ」と指摘した。
リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は記者会見で、「私はこの予算を、向上心への攻撃であり、貯蓄への攻撃だと総括する」、「働く人々は、全く減る兆しのない福祉費の穴埋めすることになる」と述べた。
来年以降の経済見通しを引き下げ
OBRは27日、経済見通しを発表した。今年のイギリス経済の成長見通しを引き上げた一方で、来年とその後4年間の予測を下方修正した。
OBRは今回、今年の経済成長率を従来の1%から1.5%に引き上げた。一方、2026年の成長率見通しを1.4%に引き下げ、その後の4年間はすべて1.5%とした。
OBRは、労働時間あたりの経済産出量を示す生産性成長率の低下が、成長見通しの弱さの背景にあると指摘。また、新型コロナウイルスのパンデミックやエネルギー価格危機など、近年のショックの後に期待されていた経済の反発が「現実化しなかった」と述べた。
「この決定は、特定の政府政策を反映したものではない」とOBRは付け加えたうえで、「イギリスの生産性の歴史的および国際的な状況に基づく最新の評価に基づいている」と説明した。
成長見通しの下方修正は、イギリス全体の生活水準向上を目指し、経済成長を最重要公約としてきた労働党政府にとって打撃となっている。
(英語記事 Millions to pay more in tax as Reeves says Budget is tackling cost of living/UK growth forecasts lowered from next year)
