2024年12月5日(木)

中国メディアは何を報じているか

2014年7月1日

中国海洋石油社のHP。「海洋石油981」就役記念の説明ページ

 我が国陸地の油田資源は減少し続け、埋蔵量の増加が見込めないことから海洋油田は石油安定供給の新たな柱になると見られる。こうして沿岸から近海へ、更に深海への海洋石油の発展は必要な道だ。中国海洋石油社は我が国最大の海洋石油生産業者であり、「海洋石油981」を象徴とする「深水艦隊」も設立した。

 2013年の我が国海域での石油・天然ガスの生産量は5000万トンだが、現在の情勢では南シナ海での石油開発を全面的に展開するには困難が伴う。それには距離的な問題がある。南シナ海は我が国大陸から遥かに離れており、巨大な浮遊式のタンカーが必要で、液化天然ガスを運ぶ船も要る。深海探査も踏み出したばかりで関連設備には大規模な資金と長期にわたるテストも必要だ。

 地質的な困難さもある。南シナ海は「第二のペルシャ湾」と呼ばれるが、ペルシャ湾とは地質的に大きく異なる。南シナ海は巨大な堆積盆地で理論上は石油・天然ガスが豊富だが、地質条件は複雑で各国や石油メジャーは技術の関門を突破できていない。

 軍事や政治的リスクもある。南シナ海南部の主要石油・天然ガス田は、我が国本土からかなり離れている。多くは九段線に沿って分布するが、我が国は周辺国と領海係争を抱え、石油天然ガスの探査、開発には軍事衝突のリスクある。こうしたリスクから外国投資を呼び込むのが難しく開発リスクを高めている。係争海域で各国は誠意と相互信頼を欠き、前に行われた南シナ海での共同探査は成果なく終わった。

 「海洋石油981」の中建南盆地での探査は南シナ海各国の神経を逆なでし、他の国は警戒するだろうが、同時に周辺国が我が国と協力破棄する可能性にも注意すべきだ。「海洋石油981」の3カ月にわたる探査は始まりにすぎず、一旦重大な発見があれば同地域で摩擦、係争が長期化する可能性もある。

* * *

【解説】

 中国が石油掘削を強行する理由や理屈はそれほど知られていないが、本文は当事者がどのように考えているのか関係者の主張をよく伝えている。それほど斬新ではないが本文からは業界関係者の焦り、危機感が伝わってくるだろう。主張の合理性や道理の有無は別として、同海域での石油・天然ガス埋蔵量が中国自身の同エネルギー供給の3割強を占めるがゆえに周辺国からの「妨害」に対して一刻も早く実効支配を確立しなければならないという焦りがあるようだ。

 また、周辺国との協調よりも独自で作業を強行しようという志向も窺える。「981」の他に4基の掘削リグが設置されたという報道もある。こうした背景には利益集団としての石油業界や造船業界(つまり軍需産業)の存在もあろう。60億元(約1000億円超)かけて建造され、昨年末に就業した石油掘削リグ「海洋石油981」を使いたくてしょうがない業界のはやる気持ちも窺える。我慢には限度があり、早く着手しなければ後れを取るという焦燥感と被害者意識、そしてもはや大国、先進国になった現在、こうした周辺の小国に侮られてはならないという傲慢さもあろう。しかし、それにしてもこうした諸国との係争長期化への覚悟と頑強さは一体どのような理由によるのか気になるところである。

■修正履歴:2ページ1段落目
「16億立方メートル」は正しくは「16兆立方メートル」でした。お詫びして訂正致します。該当箇所は修正済みです。(2014/7/3 23:50)

[特集]南シナ海をめぐる中国とベトナムの衝突

「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。


新着記事

»もっと見る