シーズンオフに野球教室に参加した時には、子供たちから「新幹線とどっちが速いですか?」と質問が飛ぶこともあった。「そんなん、新幹線が速いに決まっとるがな」と即答した。
野球選手として重ねた数多くの記録のうち、本人がもっとも誇りに思うのは、208本という通算本塁打の数だという。
福本さんが最も誇りしているのは、208本の通算本塁打。強打者でもあった(AFLO)
「だって身長168センチという、小さい体で200本打ったんですよ。これは、今でも自慢に思います」
福本さんに打撃の大切さを説いたのは、入団時の監督である、西本幸雄さんだった。新人時代の福本さんが、内野安打を狙ってゴロを打つ練習をしていたら、西本監督の雷が落ちた。「ツボに来たら、ガツンと大きいのが打てる怖いトップバッターにならないかん」と叱られた。
強く打つには、どうすればいいか。福本さんは、他の選手を観察して、ホームランを打つ時は、みな理想的なバッティングフォームをしていることに気づいた。「なんでも『形』って大切だと思うんですよ。新幹線が速度をあげるのに必要な形を追求したでしょ。あれと一緒です。ホームランは力で打つものじゃない。理想の形でタイミングよくボールを叩けば、勝手に飛ぶんです」。
1年目のシーズンが終わると、福本さんはおよそ2カ月間、毎日、鏡の前で自分のフォームを観察しながら素振りを行った。やがて「これだ」という打ち方を会得した。
2年目、力強く成長した福本さんが、投手のボールを打ち返すと、西本監督は驚いて、思わず、こう聞いた。「そのバッティング、誰に教わったんや?」
「誰にも教わっておりません。監督に言われたとおりに、やっているだけです」
不断の努力と進化への意志。福本さんが歴史に名を残す選手になったのは、それだけの理由があった。