2026年9月30日(水)

解剖:「大きな政府」を好む日本

2026年9月30日

政府はなぜ対応を遅らせたのか

 政府は若者の就職難を、景気回復によって解消される一時的な問題として扱った。ところが、新卒時に正社員として採用されなければ、企業内教育を受けて職務経験を蓄積する経路からも外れる。

 景気回復後、企業は中途採用者に即戦力となる経験を求めたため、職務経験を蓄積できなかった人ほど正社員への移行が難しくなった。新卒時の不利益が次の不利益を生み、時間の経過とともに職業経歴の格差を固定したのである。

 政府は失業率の急上昇を避け、既存雇用を維持することを優先した。採用されなかった若者は、アルバイト、進学、無業、家族による扶養などへ分散するため、既存社員の解雇ほど明確な失業問題として現れなかった。

 政治的な代表の差もあった。既存正社員には企業と労働組合という組織的な代表があった。経済界は雇用の柔軟化を求め、労働組合は組合員の雇用維持を求めた。一方、採用前の若者や非正規労働者には、政策決定へ要求を届ける回路が乏しかった。

 その結果、就職氷河期世代が抱えた問題は、フリーター、無業、ひきこもり、生活困窮、孤立という個別の問題として別々に扱われ、正社員への道を閉ざされた同世代に共通する問題として捉えられなかった。就職氷河期世代への本格的な支援が始まった19年には、その中心層はすでに中年期を迎えていた。政府の対応の遅れは、正社員共同体を政策上優先した結果である。

労働組合も若者を切り捨てた

 企業別労働組合は、現在の組合員の雇用と処遇を守ることを優先した。企業は新卒採用を抑えることで整理解雇を避け、労働組合は組合員の雇用を維持した。その労使妥協を支えたのが、新卒採用の抑制、退職者の不補充、非正規雇用の拡大であった。

 企業と労働組合は、賃金、賞与、労働時間などをめぐって対立した。しかし、正社員共同体の内部を守り、雇用調整の負担をその外側へ移す点では利害が一致した。

 企業は人件費と雇用量を調整でき、労働組合は既存組合員の解雇を回避できた。その費用を引き受けたのが、まだ企業にも労働組合にも属していない若者であった。

 バブル崩壊後の日本型雇用は、全員が同じ条件で席を争うイス取りゲームではなかった。企業は中高年正社員を席に残したまま、新たに用意する正社員の席を減らした。労働組合も、将来の組合員となる若者の席より、現在の組合員が座る席を守った。

 労使協調が守ったのは働く人々全体の雇用ではなく、すでに正社員の席を持つ人々の雇用であった。


新着記事

»もっと見る