このように、オマーン沖STSは、東西パイプラインの停止後もサウジが原油輸出を維持するための有効な緊急対応となった。一方で、大型原油タンカー(VLCC)不足や運賃上昇、STS作業の混雑に加え、ホルムズ海峡通航時の安全確保という問題も残る。
サウジは輸送ルートを柔軟に切り替えることで供給を維持しているものの、STSはあくまでリスクとコストを伴う補完的な手段であり、安定的かつ持続的な代替輸送ルートとは言い難い。
東西パイプライン再開後の懸念
9月22日、サウジアラビアはドローン攻撃で停止していた東西パイプラインの運用を再開した。ロイター通信の報道によれば、同日にはヤンブー港の原油在庫が約100万バレル増加し、送油再開の兆候が確認された。その後、9月27日までにはヤンブー港での原油積み込みも本格化し、東西パイプラインの送油量は約200万~265万b/dまで回復した。
しかし、パイプラインが再開したからといって、原油輸送をめぐるリスクが解消したわけではない。サウジとフーシ派の対立は続いており、9月24日にはヤンブーやタイフ方面を標的とした弾道ミサイルをサウジ側が迎撃した。さらに9月29日、メディナのタイバ配電所がドローン攻撃を受け、変圧器1基が停止した。サウジ側はフーシ派による攻撃と発表している一方、フーシ派は関与を否定している。
このため、東西パイプラインの復旧によってサウジの原油輸送能力は回復しつつあるものの、ヤンブーを含む紅海沿岸のエネルギー関連施設が依然として攻撃対象となっている。また、バブ・エル・マンデブ海峡周辺でもフーシ派の影響力が維持されており、ヤンブーまで原油を輸送できたとしても、紅海経由の海上輸送の安全性は十分に確保されていない。
新たな原油パイプライン構想
ホルムズ海峡と紅海の双方で輸送リスクが高まる中、アラムコのナーセル最高経営責任者(CEO)は9月下旬、追加の原油輸出ルートの確立を目指していることを明らかにした。中東経済専門誌「MEES」によると、有力候補として浮上しているのが、オマーン南部のインド洋沿岸に位置するドゥクム港である。
背景には、既存の東西パイプラインだけでは地政学リスクを十分に分散できない事情がある。東西パイプラインを利用してヤンブーからアジア市場へ原油を輸送する場合、フーシ派の影響力が強いバブ・エル・マンデブ海峡を通過するか、エジプトのスエズ運河やSUMEDパイプラインを経由して大きく迂回する必要がある。
これに対し、サウジからドゥクムまで新たなパイプラインを敷設できれば、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の双方を回避し、インド洋からアジア市場へ直接輸出できる点が大きな利点となる。

