確かに、中国と対峙すれば、英国の企業は高い代償を払うことになるかもしれないが、そうしなければ、英国は国としてより大きな代償を払うことになろう。先ず、条約義務を守らない国は信用を失う。また、英国は外交で過大な影響力を持つが、これは、英国の民主国家としての価値と、国連安保理常任理事国として諸国を糾合する力があることに由来する。ところが、英国は香港の価値を守るためにこうした力を使おうとしない。これは、英国の力の源が機能不全に陥っていることを示唆する。
英国は、単独では中国の行動を抑えられないかもしれない。しかし、周辺海域等での中国の強硬な行動に、米国など多くの国は危機感を抱いている。英国が香港の自由を守る姿勢を示せば、これらの国も動くだろう。しかし、英国が中国に「叩頭」するのなら、どうして他の国がわざわざ厄介事に関わろうとするだろうか、と述べています。
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英国は香港の自由を守るために毅然たる態度をとるべきだとして、今回の香港の民主化運動に対する英国の沈黙を批判した論説です。エコノミスト誌が、香港問題について、というよりも、中国問題について、これだけはっきりした態度を表明したことは、近年にないことと思います。
論説は、訪英した香港代表にキャメロン首相が会わなかったこと、李克強訪英に対して異例の女王拝謁を許したこと、英外務省の香港白書でも北京批判は一切なかったことを指摘し、英国の対中弱腰を批判しています。そして結論の部分では、英国が「叩頭」している、と厳しく咎めています。
過去数年間、米国の内向き志向、豪州の労働党政権、日本の民主党政権などの間に、中国の強大化、特にその経済的重要性の増大を重んじ、中国に対して表向き逆らわない風潮が瀰漫してきました。それに対抗するヒラリー・クリントンのアジア回帰は、オバマ政権の下では具体的な実は結びそうもありませんが、日本の安倍内閣、豪州のアボット内閣の出現によって、やや風向きが変わってきた感があります。このエコノミストの論説が、この新しい流れを反映しているとするのならば、世界の論調もまた少しずつ変わって来たのかもしれません。
香港の民主主義の問題は、台湾の一国二制度にも深い影響を与える問題であり、東アジア全体の政治情勢に影響を及ぼす可能性を秘めています。英国は、1984年の英中合意にさかのぼって、中国側に50年間の現状維持を要求する権利を持っています。この権利の上に眠らず、はっきり要求すべきだという議論が強まる可能性はあるでしょう。特に、香港の若い住民はそれに期待しています。50年を待たず、今から香港の自由が漸次制限されて行くという見通しには、彼らは到底耐えられないでしょう。
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