家族がテーマの新作は、細田監督が自分自身「突如として」家族をもった実体験に則っていたという話が前回。登場人物の要(かなめ)に当たるお婆さんの役の声優は、あれは富司純子さんかという浜野氏の問いに対して…。
富司純子、花札、マキノ雅弘
細田 そうです富司純子さん。
浜野 あの人選はどんな考えで?
細田 元武家の一族だという設定です。それを束ねている人なので、武家の女らしい、背筋のしゃんと通ったお婆ちゃん。それを鮮やかに演じていただきたいと思いついたのが、富司純子さんでした。
それからもう一つ、この映画では「花札」が大きな役目を…。これも僕の体験で、昔お盆やお正月、家族で何か一緒にというと花札でしたから、僕の中では家族というと花札なんです。で、日本映画で花札といったら、これは鶴田浩二さんと、富司純子さんでしょう(「江波杏子さんも」、と浜野氏)。
「緋牡丹博徒」です。あのシリーズ第三弾で「花札勝負」という、加藤泰(たい)監督の作品を思い出しました。アニメーション映画に富司さん、出ていただけるかなと思ったのですが、役柄的にも、それから映画史的にもぜひ出ていただけないでしょうかとお願いをして快諾いただきました。
あともう一つ、東映動画で育った僕にとって、師匠は幾原邦彦(44、「美少女戦士セーラームーン」)さんでした。幾原さんの師匠は山内重保(56、「聖闘士星矢」)さん。山内さんの師匠は勝間田具治(ともはる、71、「狼少年ケン」「サイボーグ009」)さん。そして勝間田さんの師匠が、マキノ雅弘さんでしょう。
浜野 なーるほど。東映プロデューサーだったお父さんから娘の富司さんを18の時に預かって、着物の着方とか身振りを何ヵ月も富司さんに仕込んだのがマキノ雅弘監督だものね。「藤純子」っていう最初の芸名もマキノ監督がつけた…。
細田 そうだと伺っています。僕は東映動画で働きながら、アニメーション映画にも、東映映画のスピリットがずーっとこう、息づいているのを感じてました。マキノ監督からすると僕なんか孫弟子というかひ孫弟子くらいですけど、そのマキノ監督が育てた富司さんと一緒に仕事をさせていただけたらなあ、と。そう思っていたということもあります。
司会 そこは、断絶がないんですね。アニメを理解するとき、忘れてならない一つの文化の継続ですね。東映の伝統が、アニメ映画の世界にも、細田監督の世代にまで、ずっとつながっている…。
細田 ええ。おこがましいんですけど。
司会 実体験を大切になさることがよくわかりました。とするともしかして、「サマーウォーズ」に出てくるあの大きな家。あれも記憶の中にある景色ですか。昔の大きな家っていうと日の当たらない布団部屋みたいのが必ずどこかにあって、そこが子供にとっては異空間めいた場所だったり。映画にも、そんな部屋が出てきますが…。
お寺で遊び、田んぼだらけの景色を絵に描いた
細田 子供の頃、お寺の「日曜学校」に行ってました。村の子供たちみんな、強制的にお寺へ行ってお経を読まなきゃいけませんでした。小学校の頃までずっと。
すると、終わった後で、大体お寺で遊ぶ。廊下は黒光りがしているし、中庭は立派で、おっしゃるとおり大きな納戸があったり。僕の家の本家も、そんな感じでした。そういう昔の家の、大きさの魅力はこの映画に随分入っていると思います。
浜野 いま東映映画の伝統、って話をされたでしょう。ファンタジーの世界を、東映の動画は描くことが多かったですね。細田さんはやはりそれに影響されて、いつも異界、異次元を描くんだろうか。それとも子供時分から夢見がちだったから?