リスクとベネフィットを比較する
そもそも、人工合成物だから毒性があるというわけではない。天然のものにも毒は含まれていると長村教授は説明する。
「生野菜にも、自然の殺虫物質や発がん物質が入っています。野菜が自分たちの命を守るためです。その毒の量がきわめて少ないため、私たちはその植物を野菜として食べることができるのです」
長村教授によると、生野菜のパセリやセロリなどには、「メトキサレン」という自然由来の発がん物質が含まれている。それにもかかわらず、パセリやセロリはがんを防ぐために重要な野菜とされている。がん抑制効果のある食物繊維やβカロテンなどが豊富に含まれているので、結果として食べたほうががんになりにくくなる。
ここで出てくるのが、“リスクとベネフィットを比較する”という考え方だ。がんを発生させる危険よりも、がんを防ぐ効果のほうが大きければ、その食品はがんを防ぐ効果のある食品となる。
では、食品添加物の場合はどうか。考えてみれば、食品添加物はなんらかのベネフィットを得るために使われているもののはずだ。巷で「四大添加物」とされているのは、人工保存料、人工甘味料、化学調味料、合成着色料。つまり、食品の保存性を高くしたり、味を整えたり、見た目をよくしたりする効果がおもに期待されている。
「保存料を使うことで、食品を腐らせず長持ちさせられることを考えたら、どちらが得であるかを考えるべきです。コンビニエンスストアがやっているように、チルド状態で冷やせば保存できるという人はいるでしょう。しかし、チルド保存にはエネルギーがかかります。それに店を出てからは保存効果はなくなります。“保存料は使用していません”と謳う食品はナンセンスです」
人工甘味料についても、使われていることのベネフィットは、よくよく考えてみれば大きい。長村教授は言う。
「日本では3000万人以上が、糖尿病ないし予備群、あるいはメタボリック症候群とされています。中には、コーラを飲むのをやめなさいと言われても、やめることができない人もいます。砂糖入りのコーラを飲めば血糖値は高くなりますが、人工甘味料を用いたコーラを飲めば血糖値は上がりません。健康に気を使わなければならない人たちには、天然の食材よりも食品添加物を使うほうが体を考えたら重要となるわけです」
「最近、国際的な科学雑誌『Nature』に人工甘味料で肥満者が増加する可能性がある論文が出され、メディアでは人工甘味料は危ないというように報道され、そのように誤解をしている人が出ています。しかし、この実験結果で、人工甘味料より砂糖のほうが体によいと考えてはいけません。少なくとも前述の3000万人以上の方々にとっては、人工甘味料を砂糖の摂取に置き換えることのほうが体に悪いのは明白です」