石炭というと、危険、汚い、過去のもの、という3Kを連想する人は少なくない。しかし、新しい石炭の姿はこれら3つの「K」とかけ離れたものである。
石炭はいまなお、わが国の電力と産業の重要な基盤であり、けして過去のものではない。新たな「エネルギー基本計画」でも重要なベースロード電源のひとつに位置づけられた。
国内の炭鉱(ヤマ)のほとんどが閉山に追い込まれてからは、多くを輸入に頼っているものの、北海道では採炭が続いている。どっこい、ヤマは生きているのだ。
なかでも、釧路市にある「釧路コールマイン」は、安全対策と新技術導入に力を入れ、閉山の波に凛として抗ってきた。ベトナムや中国から海外研修生を受け入れるなど、前身の太平洋炭砿からの「進取の気概」を受け継いでいる。
写真で呼び覚ます人びとの記憶
かつて石炭産業の中心地のひとつであった釧路炭田。その生活を、人びとの記憶というかたちで記録したのが、本書である。北海道新聞(釧路)に2012年9月から14年2月まで連載された「記憶の一枚『釧路炭田再発見』」を加筆修正し、まとめた。
あわせて、釧路市立博物館で開催された企画展「釧路炭田の炭鉱と鉄道」(14年1月~3月)の展示写真なども豊富に収録した。
著者は、東京人なのにヤマへの想いが高じて釧路市立博物館に職を得た石川孝織学芸員。幼いころから鉱山に関心を持ち、大学院では地質学を専攻した。同時に、幼いころからの鉄道ファンで、本書では、炭鉱と切り離せない輸送路にも想いをよせて石炭産業全体を俯瞰している。
ヤマの記録としては、福岡県指定有形民俗文化財で世界記憶遺産にも登録された山本作兵衛の炭坑記録画が有名である。作兵衛自身の体験から湧き出るように絵と文をつむいだものだ。