2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2014年10月24日

 本書も、一枚の写真から人びとの記憶を呼び覚まし、生き生きとした言葉を得たことで唯一無二の記録となった。

 「釧路のマチにはたくさんの炭鉱と鉄道と共に生きてきた方々がいる。聞かなくてはならない。博物館で、あるいはお宅へお邪魔して、東京在住の方へ長時間にわたる電話取材を行ったこともあった」。そう、著者は述懐する。

 坑口を出た炭鉱マンのはじける笑顔。「持ち家制度」で建ったマイホームの上棟式。怪我をした夫に代わって炭鉱に再就職し、事務にうちこむ女性。冷蔵庫のCM撮影のために白く塗られた蒸気機関車と貨車。そして、新釧路駅構内で解体される蒸気機関車・・・・・・。

 個人所蔵の写真も多く、私的なまなざしでしか撮りえないヤマの暮らしが、くっきりと見えてくる。

 石炭の採掘から選炭、輸送にいたるまでのさまざまな仕事の中身が、時代を生きた人びとの素の姿と言葉で語られる。石炭産業という大きなタペストリーがゆっくりと、目の前に織り上げられていくようだ。

著者にしかなしえなかった
貴重な「オーラルヒストリー」

 現在、国内唯一の坑内掘り炭鉱である「釧路コールマイン」がいまなお釧路に健在な理由も、本書を読むと腑に落ちる。

 掘削や採炭切羽、仕繰、そして保安における新技術の導入。保安教育や救護隊の活動、地域ぐるみの文化活動。担当者たちの試行錯誤と創意工夫がヤマと地域を支えてきたことがわかる。

 そんな炭鉱マンたちの仕事ぶりを、著者は温かいまなざしで、ときにユーモラスな口ぶりで、淡々と記録する。たとえば、「採炭の機械化」では、雄別炭砿が国内で初めて導入した採炭機械「トレパナー」の写真を紹介して、次のように記す。


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