プーチン大統領のヴァルダイ会議における演説を紹介した11月10日の記事で、筆者はその背景として「形を変えた侵略」という概念がロシアの国家指導部で広く共有されていることを紹介した。
要するに、旧ソ連諸国での「カラー革命」やアラブ諸国での「アラブの春」、そして2014年2月に発生したウクライナでの政変などは、単なる民主化運動ではなく、西側の陰謀である、という見方だ。
もはや国家間の大規模戦争が困難となった現代において、西側諸国は敵国の内部で政治的不安定状況を煽り、外部からは政治・外交・経済上の圧力と共に強力な情報戦と軍事的威圧(場合によっては実際の軍事力行使)を行い、公式の戦争を起こすことなく政治的目的(都合の悪い体制の打倒)を達成する。そしてロシアもまた、このような脅威に晒されているのだ−−−こう書くとなにやら陰謀論じみて聞こえるが、今やロシアではこのような考え方が安全保障政策の中心的テーマとして急浮上しつつあると言ってよい。
国防指導部のトップも
「戦争のルールが変わった」
これがただの陰謀論でない証拠に、このような見方を唱えているのはまさに国防指導部のトップそのものである。
たとえば2013年2月、ロシア軍の制服組トップであるヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長は、「予測における科学の価値」というちょっと変わったタイトルの論文を発表した(『軍需産業クーリエ』2013年2月27日付掲載)。
ここでゲラシモフ参謀総長が述べているのは、21世紀の戦争は国家が堂々と宣戦布告をしてから始めるような分かりやすいものではなくなっているということだ。こうした近代的な戦争のモデルはもはや通用しなくなり、戦争は平時とも有事ともつかない状態で進むようになった。しかもそのための手段としては、軍事的手段だけでなく非軍事的手段の役割が増加しており、政治・経済・情報・人道上の措置によって敵国住民の「抗議ポテンシャル」を活性化することが行われる、と主張した上で、ゲラシモフは「戦争のルールが変わった」のだという。
そこでここでは、ゲラシモフのいう新たなルールに基づいた戦争を「新しい戦争」と仮に名付けることにしよう。