2012年11月、ロシアのセルジュコフ国防相が突如として失脚した。
セルジュコフと言えば「剛腕」で知られた人物。プーチン大統領の軍改革プランに反対する将軍や提督たちを片っ端から更迭し、納期を守らない軍需産業は容赦なく罰金を課したり指名停止処分とし、さらには西側諸国のハイテク兵器を導入しようと画策するなど、在任期間中の5年間でロシア軍をほとんど別の軍隊に生まれ変わらせた人物である。だが、それだけに軍や軍需産業からの恨みは深く、突如スキャンダルを暴露されて失脚に追い込まれた。
裏金に愛人…
「二段構え」のスキャンダル
そのスキャンダルというのが、二段構えになっている。スキャンダル自体は、セルジュコフの肝いりで作らせた軍事サービス企業「ロスオボロンセルヴィス」が国有資産の大規模な横領を行っていたというものだ。この企業はロシア軍のために炊事・掃除・洗濯といった日常業務から兵器の整備など何でもやる国防省の外郭団体だが、国防省資産管理局長のエフゲニヤ・ワシリエワという人物が、オボロンセルヴィスと結託して(ワシリエワはオボロンセルヴィスの役員も兼任していた)軍用地を売って裏金を作っていたのである。
これだけならば、セルジュコフには監督責任があったというだけで、致命傷とは言えない。ところがそのワシリエワが、セルジュコフの愛人だったことが同時に暴露されてしまった。
それもセルジュコフは自分が妻と暮らすマンションの下の階にワシリエワを住まわせており、彼女の部屋に警察が踏み込んだとき、室内には「バスローブとスリッパ」という情けない姿のセルジュコフが居たという。
だが、ロシアの国防相といえば、核攻撃を命じる「核のブリーフケース」を預かる3人の1人である(残りは大統領と参謀総長)。したがって、その居場所は基本的に秘匿され、情報機関が管理している。つまり、警察がセルジュコフの居る時を狙ってワシリエワの部屋に踏み込んだということ自体、情報機関にもセルジュコフ失脚を狙う一派が居たのだろう(憲兵隊の創設などを巡ってセルジュコフは情報機関とも対立していた)。
しかもセルジュコフの正妻はズプコフ元首相の娘であるため、セルジュコフはスキャンダルの暴露によって政治的有力者である義父の機嫌まで決定的に損ねてしまった。