メディアから読むロシア

2014年10月20日

»著者プロフィール
著者
閉じる

小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

 「ピンク色の混じった赤いスリッパ。私の可愛い人がくれたの。私の愛しい人がくれたの」

 「私には可愛い人がいるの。可愛い愛しい人がいるの。ピンク色の混じった赤いスリッパ」

 「小さなピンク色。ピンク色の夕焼け」

 「私が赤いスリッパを履いているのが見えるでしょう。あぁ、こんなスリッパ! こんな格好の!」

 「あぁ、こんなにもあなたは愛おしい! あぁ、なんという夕焼け!」

 「スリッパを履きたいわ! 赤い、真っ赤な、ちょうどこんな格好の!」

 「スリッパは鏡台に置いておきましょう。ずっとそのままでいるように。その赤い姿が好き!」

 「真っ赤なスリッパは燃えさかる炎。ピンク色の世界を深紅が彩る」

 (後略)

* * *

 スリッパというと警察が踏み込んだときにセルジュコフが履いていたというスリッパを想起するが、この歌詞で歌われているのはセルジュコフがワシリエワにプレゼントしたものだったようだ。だが、セルジュコフ当人は辞任と同時に公の場には全く姿を現さなくなっており、ワシリエワとも別れたらしい。

 彼女の罪は罪として、軟禁された自宅で夕方、セルジュコフの残していった赤いスリッパを眺めているワシリエワを想像するとちょっと可哀想ではある。

 もっとも、翻訳中にあるように、「私の歌を聴けばセルジュコフはすぐに私と結婚してくれるでしょうよwww」などと自虐的なジョークを飛ばしてみせるところに彼女のしたたかさであり、多くのファンを獲得している。実際、前述の「ターパチキ」も公開から2日で100万回も閲覧されるという大ヒットとなり、彼女のプロモーションのうまさを見せつけた。

 だが、セルジュコフを追い落とした軍の側はワシリエワの「活躍」を心よく思っていないらしく、軍人の団体である「将校連盟」は裁判所に対し、「自宅軟禁中のワシリエワが屋外でミュージックビデオを撮影しているのはおかしい」と抗議する事態にも発展した。また、こうして派手な活動を続けることで世論を味方につけ、自分の罪を軽くさせようという狙いがあるのだと指摘する声もあるし、ネットの書き込みを見ると「こんな女が国防省で働いていたなんて…」と怒りや不信を露わにする声も少なくない。

 ただ、ワシリエワが世間の耳目を集める立場を獲得したことはたしかで、今後の動向が注目される一人である。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る