「ピンク色の混じった赤いスリッパ。私の可愛い人がくれたの。私の愛しい人がくれたの」
「私には可愛い人がいるの。可愛い愛しい人がいるの。ピンク色の混じった赤いスリッパ」
「小さなピンク色。ピンク色の夕焼け」
「私が赤いスリッパを履いているのが見えるでしょう。あぁ、こんなスリッパ! こんな格好の!」
「あぁ、こんなにもあなたは愛おしい! あぁ、なんという夕焼け!」
「スリッパを履きたいわ! 赤い、真っ赤な、ちょうどこんな格好の!」
「スリッパは鏡台に置いておきましょう。ずっとそのままでいるように。その赤い姿が好き!」
「真っ赤なスリッパは燃えさかる炎。ピンク色の世界を深紅が彩る」
(後略)
* * *
スリッパというと警察が踏み込んだときにセルジュコフが履いていたというスリッパを想起するが、この歌詞で歌われているのはセルジュコフがワシリエワにプレゼントしたものだったようだ。だが、セルジュコフ当人は辞任と同時に公の場には全く姿を現さなくなっており、ワシリエワとも別れたらしい。
彼女の罪は罪として、軟禁された自宅で夕方、セルジュコフの残していった赤いスリッパを眺めているワシリエワを想像するとちょっと可哀想ではある。
もっとも、翻訳中にあるように、「私の歌を聴けばセルジュコフはすぐに私と結婚してくれるでしょうよwww」などと自虐的なジョークを飛ばしてみせるところに彼女のしたたかさであり、多くのファンを獲得している。実際、前述の「ターパチキ」も公開から2日で100万回も閲覧されるという大ヒットとなり、彼女のプロモーションのうまさを見せつけた。
だが、セルジュコフを追い落とした軍の側はワシリエワの「活躍」を心よく思っていないらしく、軍人の団体である「将校連盟」は裁判所に対し、「自宅軟禁中のワシリエワが屋外でミュージックビデオを撮影しているのはおかしい」と抗議する事態にも発展した。また、こうして派手な活動を続けることで世論を味方につけ、自分の罪を軽くさせようという狙いがあるのだと指摘する声もあるし、ネットの書き込みを見ると「こんな女が国防省で働いていたなんて…」と怒りや不信を露わにする声も少なくない。
ただ、ワシリエワが世間の耳目を集める立場を獲得したことはたしかで、今後の動向が注目される一人である。
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