2024年4月19日(金)

メディアから読むロシア

2014年11月25日

 問題は、このような陰謀論染みた世界観をロシアの政治・軍事指導部がどこまで本気にしているのかという点だ。

 たしかに西側が旧ソ連諸国における体制転換を民主化支援の一環として支援してきたことは事実であり、それに対してロシアが強い不満を抱いてきたことは前回の拙稿で紹介した。

 ただ、そのような「新しい戦争」が西側の軍事戦略の中心的要素となり、ロシアもその標的となっている、というところまで行くと「西側」の人間としてはかなり首を捻らざるを得ない。むしろ、こうした脅威を強調することで、政治指導部としては国内の締め付けに対して、軍事指導部としては軍事力の強化に対して格好のエクスキューズを得た格好であると見ることもできよう。

 一方、このような脅威を指摘しつつ、実際にウクライナで「新しい戦争」を展開しているのはむしろロシアの方である。軍事ドクトリンに「新しい戦争」の脅威が盛り込まれるならば、ロシアもまた、それを自国が攻勢的に用いることを考慮していると考えねばならない。さらに言えば、大規模な国家間戦争が法的にも、国民の支持という観点でも不可能になりつつある21世紀の世界で軍事的な目的を達成しようとした場合、このような「戦争のように見えない戦争」こそが「21世紀の典型的な戦争なのではないか?」というゲラシモフの問いかけは意味深長である。

署名欄のサプライズ

 ちなみに、バルエフスキー論文は、その末尾にひとつのサプライズがある。署名欄に「ユーリー・バルエフスキー 内務省国内軍総司令官顧問 上級大将」と記されているのだ。

 バルエフスキーが内務省国内軍総司令官の顧問に就任していたことはこれまで知られていなかった。「新しい戦争」を真剣に考えるならば、連邦軍だけでなく、国境警備隊(FSBの傘下にある)や内務省国内軍(警察とは別個の、国内での鎮圧作戦などを任務とする重武装の軍事組織)といった準軍事組織との連携は必須である。折しもロシア軍は、こうした準軍事部隊も含めたロシアの全軍事部隊の統一指揮機関「国家国防司令センター(NTsUO)の設立を進めており、12月には完全稼働体制に入るという。

 以前から国内軍総司令官には陸軍出身者が就任するなどして軍とは密接な連携関係にあったが、バルエフスキーの国内軍総司令官顧問への就任は、こうした軍事組織の統一運用に向けた布石のひとつとも考えられよう。

  
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