ロシア政府は2004年以降、ヴァルダイ会議(ヴァルダイ・インターナショナル・ディスカッション・クラブ)という有識者会議を組織している。ヴァルダイというのは第1回会議が開かれた古都ノヴゴロドのヴァルダイ湖にちなんだ名だ。
ヴァルダイ会議の立ち上げに関して中心となったのは、国営ノーヴォスチ通信や外務省付属国際関係大学(MGIMO)、対外政策NGOの外交防衛政策会議(SVOP)などで、現在では運営のために専門の財団が設置されている。
ヴァルダイ会議は普段から世界各国の著名なロシア専門家による会議や論文の発表といった活動を行っているほか、その総決算とも呼ぶべき大規模な国際会議を毎年開催している。これは普段からヴァルダイ会議と関係を持っているロシア専門家を一同に集めたもので、我が国の場合は、袴田茂樹・青山学院大学教授、下斗米伸夫・法政大学教授、畔蒜泰助・東京財団研究員などがこれまでに常連メンバーとして参加してきた。
会議には毎年テーマが設定される。ソチで開催された今年のヴァルダイ会議のテーマは「世界秩序:新たなルールか、ルールなきゲームか?」というもので、25カ国から108人の専門家が集まって議論が行われた。
世界秩序の転換と厳しい対米姿勢
興味深かったのは、この会議の初日にプーチン大統領が行った演説である。ウクライナ危機後の世界情勢を、プーチン大統領が包括的に語った初めての演説であったためだ。演説は1時間にわたる長大なものであるが、以下、2回に分けてこの演説の注目点をご紹介していきたい。なお、演説の全文はロシア大統領府のサイト(http://kremlin.ru/news/46860)に掲載されている(ロシア語)。
第1に注目されるのは、世界秩序の大規模な転換が発生しつつあるという視点がはっきりと打ち出されていることである。しかも、プーチン大統領によれば、それは大きな波乱を呼ぶものである。たとえば以下の発言を見てみよう。
現代の状況を分析するにあたって、歴史の教訓を忘れてはなりません。まず何より、世界秩序の変化(そして私たちが今日、目にしているのはこのようなスケールのものです)は、必ずしも世界大戦を引き起こした訳ではないにせよ、常に戦争を伴ってきたのであり、やがてそれは烈度の高い地域戦争の連鎖へと繋がったのです。第二に、グローバル政治は、経済的なリーダーシップ、戦争と平和の問題、そして人権を含む人道的な次元の全てに関わるようになっています。