そのものズバリのタイトルにひかれて本書を手にとった。最近20年ぐらいのインド社会の様子がよくわかる本である。筆者(中村)はまだインドに行ったことがなく、現地感覚がないため、自信をもって語れないのが残念だが、本書を読み始める前に、自分がインドに対してどんなイメージを持っているか書きだしてみた。
カレー、カースト制度、貧富の格差、インド数学、IT、楽器のシタール、ボリウッド映画……などだ。これまで新聞やテレビのニュースで見たり、耳にしたりした中での印象である。
そのうえで本書を読んでみて、自分の挙げた要素のほとんどは古いインドのイメージにとどまっていることに気付かされた。本書を読むと、カースト制度は残っているものの意識は薄くなり、英語を話し、高い教育水準を目指している新しいインドの姿が随所に見てとれる。
様々な組織のトップにインド人が
一番印象に残ったのは、著者のように超富裕層でもなく、かといって貧困層でもない、その中間的な位置にいるインド人が、努力して名門校に入り、いま活躍している姿を本書を通じて垣間見ることができたことだ。電気も水道もなかった家で少年時代を過ごした著者が名門インド工科大学(IIT)に入学し、日本で成功するまでのライフストーリー自体が、インド社会の変容を体現しているともいえる。
かつての英国の植民地だからといって、英語教育が幼少時から広範に行われているわけではなく、多くの人が努力を重ねて英語力を身につけている様子もよくわかる。そして特に理系の学生は米国に留学してIT分野での成功を夢見る。あるいは、世界を舞台にしたビジネスを成功させようとする。そうしたインド人がどんどん増えている。
本書も指摘しているように、近年、世界の様々な組織のトップにインド人が座ることが珍しくなくなっている。ハーバードビジネススクールの学長はニティン・ノーリア氏というインド出身者である。その敷地内にはインドのタタ財閥から寄付された約50億円の資金で最近建てられた「タタホール」がそびえたつ。