マラニス氏は現在、オバマ大統領の伝記を執筆中だ。オバマ大統領は今、47歳。年齢的に言うと、ケネディ氏の43歳(就任時)、クリントン氏の46歳(同)に近い。さらに、事実上父親不在で育ったクリントン氏同様、オバマ氏の生い立ちも、ケニア人の父親との希薄な接点など複雑な影がある。マラニス氏は「クリントン、オバマ両氏とも母親の影響が大きい」と筆者に語った。新たな作品では、オバマ氏の私的な女性観なども浮かび上がることだろう。
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オバマ大統領の私的な女性観にはまだ詮索の余地がありそうなのに対し、公的な女性政策は、明快でストレートだ。基本的には、「少数派の権利を守る」という大統領のアイデンティティーにかかわる視点が核となっている。おかげで、昨夏まで政敵だったヒラリー・クリントン現国務長官の民主党内の女性支持者の多くも味方についた。その意味で、オバマ政権が女性政策をどう推進し、女性をどう処遇するかは、発足半年を超えた政権にとって、内政、外交両面での重要政策と同様、一つの指標となる。
結論から言えば、この半年間、経済再生、医療保険改革、アフガニスタン、北朝鮮、イラン問題などの各難題への即効薬が見つからない中で、大統領は女性政策では健闘しているといえるだろう。
就任から10日たたない1月29日、大統領が最初に署名し、オバマ政権下で初めて成立したのは、女性らへの賃金差別に対する労働者の告発権限を拡大する「公正賃金法」だった。同法は、性別や人種などによる賃金差別に対し、従業員が企業を提訴しやすくする内容。男性従業員の賃金額と比べて「差別待遇を受けた」として、大手タイヤメーカーを相手取って賠償金を求めた女性の元従業員、リリー・レッドベターさんが連邦最高裁で敗訴したことを受け、民主党が2007年から立法化を進めていた。
署名に際し、大統領は「これが私が最初に署名する法案であることは、ぴったりです」と始めた後、こう続けた。
“Today, I sign this bill not just in her honor, but in the honor of those who came before -- women like my grandmother, who worked in a bank all her life, and even after she hit that glass ceiling, kept getting up and giving her best every day, without complaint, because she wanted something better for me and my sister....She knew it was too late for her. ... But this grandmother from Alabama kept on fighting, because she was thinking about the next generation. It's what we've always done in America, set our sights high for ourselves, but even higher for our children and our grandchildren.”
(本日、私はこの法律に署名しますが、それは彼女(リリー)の栄誉のためだけではなく、先人たちのためでもあります。私の祖母は、生涯を銀行で勤め上げ、「ガラスの天井」にぶつかった後も、諦めずに立ち上がり、黙って毎日最善を尽くして働きました。それが、私や私の妹のためになると考えたからです。署名は、彼女のような女性たちのためでもあります。・・・リリーは、その行動が自分のためには遅すぎることはわかっていました。・・・でも、このアラバマのおばあさんは戦い続けたのです。次の世代のことを考えていたから。それがアメリカで我々が常にやってきたことです--自分たちのために視点を高く持ち、子や孫たちのためにはさらに高めるのです。)
演説で大統領は、賃金のことだけでなく、女性の社会進出や組織内での昇進・昇格を阻む「ガラスの天井」にも言及し、女性の権利向上や社会進出に理解のあるところをアピールした。