大統領は政権内の各組織のトップにも多数女性をあてている。ヒラリー・クリントン国務長官の起用はもとより、目下、政権の最大の難題と言われる医療保険改革を担当する厚生長官にキャスリーン・セベリウス・前カンザス州知事、テロ対策担当の国土安全保障長官にジャネット・ナポリターノ・前アリゾナ州知事。このほかにも、経済対策で大統領に助言する大統領経済諮問委員長に大物経済学者のクリスティン・ローマー氏、コミュニケーション部長に、民主党のベテラン選挙参謀幹部だったアニタ・ダン氏ら、各分野での「イイ女」が多士済々だ。
米国内で女性の管理職は約4割とされるが、「ガラスの天井」は、重要組織のトップ就任の前に最も堅固に立ちはだかる。ワシントン・ポスト紙政治部でホワイトハウスを担当するアン・コーンブラット記者は、その“最後の壁”への対応について、オバマ政権は「よくやっている」と評価する。
コーンブラット記者は現在、ワシントン政官界で生きる女性に関する本を執筆中だ。題名は“Notes from the Cracked Ceiling(直訳は「ヒビの入った天井からのメモ」)”。来年前半に出版予定だ。題名の由来は、クリントン国務長官が昨年6月、大統領選からの撤退を正式表明した際の演説にある。「最も高くて固い『ガラスの天井』を破ることはできなかったが、皆さんのお陰で(クリントン氏の得票総数の)1800万の『ヒビ』が入った。次の挑戦はもう少し簡単になる」という、歴史に残る演説だ。
コーンブラット記者は、オバマ政権がこの問題で力をいれる理由について、「米国の人口の半数以上、民主党支持者で見ればさらにそれ以上を女性が占めることを考えれば、極めて実利的な戦略だ」と分析した。
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オバマ大統領の女性政策重視は、少数派の権利向上と政権基盤強化の双方を視野に入れたもののようだ。この点は、女性である筆者にもよく理解できる。しかし、もう一方の私的な女性観については、筆者にはまだおぼつかない世界が広がる。今後、オバマ氏も「力ある多くの野心家の特徴として共通する、生への強烈な渇望」をみなぎらせていくのだろうか。むろん、各大統領の個性が一番大きな要素ではあるが、それが政権の盛衰にも影響するのだから、目をそむけるわけにいかない。
大統領研究者のマイケル・ベシュロス氏が政治指導者の特性について行った分析を、マラニス氏は自著でこう引用している。「たいていの人間と違って、彼らは常に自分を肯定してくれる人々に囲まれている。そのために、指導者というものは、普通の人間なら思いもしないような、自分が不死身だという感覚を持ってしまう」
女性問題に限らず、就任半年を過ぎたオバマ大統領も、いつか自らを「不死身」だと信じ始めるのだろうか。初の黒人大統領、という大きな歴史を作った指導者として、「不死身」度は増すのか、あるいは逆に原点を忘れず、罠を越える希有な指導者となれるのか--。「チェンジ」への興味は、今後も尽きない。
※「ワシントン駐在 政治部記者が見つめる“オバマの変革”」は今回で終わります。
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