ECBの量的緩和の決定を、市場は概ね好意的に受け止めたがデフレの回避、域内格差の是正に、どのくらいの効果が期待できるのだろうか。
はっきりしていることは、米連邦準備制度理事会(FRB)の成功例を、ユーロ圏に当てはめるのは難しいということだ。資本市場が発達している米国と違い、ユーロ圏の金融システムは銀行が中心。市場メカニズムを通じた波及には限界がある。特に、南欧では、資本市場へのアクセスが限られる零細企業の割合が高く、量的緩和の効果が浸透しにくい。
そもそも今のユーロ圏で投資や雇用が伸び悩んでいるのは資金調達に問題があるからではない。障害となっているのは、経済の先行きの不透明さ、労働関連などの各種の規制や手続きの煩雑さ、税・社会保険料の負担の重さだ。
量的緩和はインフレ期待の変化とユーロ安を通じて一定の効果を発揮する見通しで、世界的な原油安とともにユーロ圏経済の回復を下支えするだろう。しかし、構造改革の進展がなければ、投資と雇用の問題は解決しない。
ECBのドラギ総裁も、金融政策が効果を発揮するためには、信頼を回復し、投資の拡大につながる構造改革と成長に優しい財政政策が必要とし、政府と欧州委員会の取り組みを促した。
財政危機以降、EUは、ユーロ参加国のマクロ経済政策の監視を強化し、財政の緊縮と歳出増につながらない規制改革で競争力を回復し、成長軌道を取り戻すことを目指した。こうした処方箋は、ドイツの強い主張で導入されたが、デフレの脅威の広がりという結果を招いた。ドラギ総裁は、自ら金融緩和の強化に動くとともに、政府と欧州委員会には財政緊縮一辺倒の姿勢を改めることを求めたのだ。
限界が明らかになったドイツ型処方箋
なぜ、ドイツ型の処方箋はデフレの脅威を広げることになったのか。1つは、構造改革が、効果を発揮するまでに時間が掛かること。もう1つは、財政緊縮によって、長期にわたり公共投資が抑制され、構造改革の効果を高める支出も抑制されたことだ。
財政危機に見舞われた南欧では、労働市場を中心に異例のスピードで構造改革が進展したが、失業率の劇的な改善や成長の加速はみられない。むしろ、解雇規制緩和や賃金調整などのマイナス効果が強く現れている段階だ。ドイツは、社会保障と労働市場の一体改革で成果を挙げた成功例だが、改革を実行し、雇用が拡大に転じるまでに、5年を要した。南欧は、ドイツよりも産業基盤が脆弱なため、より幅広い改革が必要だ。効果が表れるまでに、より長い時間が掛かるだろう。
財政政策に関しても、名目GDPの3%を超える過剰な財政赤字の有無という側面だけでなく、中期財政目標に基づいて、債務残高の抑制や景気循環要因を除いた財政赤字の着実な解消を求められるようになった。結果、財政赤字の削減は進んだものの、中期的な成長に必要な投資や構造改革の効果を高める支出、例えば教育や積極的労働市場政策への支出も圧迫され、需要不足が拡大、潜在成長率も落ち込んだ。