すでに、12年頃から、EUでは、緊縮一辺倒から成長に配慮した健全化に軸足を移し始めていたが、これまでは企業の活動や就業のインセンティブを妨げないような税制への改革に力点があった。しかし、デフレの脅威が迫り、長期不況が続く国々で社会的な緊張が高まったことで、ここにきて、有効需要を生み出すと同時に潜在成長率の引き上げに通じるインフラ投資の拡大が重視されるようになってきた。
インフラ投資のための枠組みとして、昨年11月、欧州委員会の新委員長に就任したユンケル氏が早期の立ち上げを目指しているのが「欧州戦略投資基金(EFSI)」だ。EFSIは、EUからの資金を呼び水に官民の資金を動員し、15年から17年の3年間で3150億ユーロの長期投資を行う。欧州委員会は、財政的な余裕が乏しいEU加盟国政府に、基金の利用を通じたインフラ投資の拡大を促すため、基金への拠出が中期財政目標からの乖離の原因となった場合には、財政規律違反を問わない方針だ。併せて、南欧諸国のようにGDPギャップが4%を超えるような「例外的に悪い経済状況」の国には、財政健全化措置の一時凍結を認める方針も打ち出した。
ユーロ圏に共通国債市場があれば、ECBはより機動的で大規模に量的緩和を展開できる。域内の成長と雇用の格差是正に使える共通財源を備えていれば、需要不足と構造的な失業、潜在成長率の低下が目立つ国に集中的に投資することもできよう。財政危機の最悪期には、財政統合の議論が浮上しかけたが、結局はドイツ主導で各国の財政運営や構造改革に関するルールと監視が強化されただけで終わった。
足もとでは南欧の「緊縮疲れ・改革疲れ」の一方、ドイツでは「支援疲れ」が広がり、財政統合の議論が進むような状況にはない。結果として、ECBの量的緩和もEUと各国政府の財政出動も強い制約を受ける。デフレ懸念、域内格差からくる緊張を直ちに封じ込めることは難しいだろう。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。