IMFの諮問機関である国際通貨金融委員会が、「世界経済の回復は想定よりも遅く、下方リスクが増加している」とする共同声明を発表したことに代表されるように、世界経済が停滞している。また、主要国市場でも一気に世界経済に対する悲観的な見方が広がっている。
確かに、ユーロ圏経済が低迷している上に、世界経済の鈍化や対ロ制裁の影響などを受けて、いままでユーロ圏をけん引してきたドイツ経済まで一気に落ち込んでいる。また、中東等での地政学的リスクが高まっており、中国経済を始め主要新興国経済の成長も鈍化している。日本の消費税引き上げ後の景気展開も、思わしくない。
しかし、世界経済の動向を地域ごとの動きで見ていては全体の流れが分からない。世界的な成長鈍化の背景には新たな潮流があり、それはアメリカ経済と中国経済の構造変化がもたらしている想定通りの動きである。
アメリカ経済はもっと一人勝ちする
世界経済が全般的に停滞する中で、アメリカ経済は一人勝ちの様相を呈している。直近で水準調整的な市場の動揺はあるものの、経済成長は堅調であり、企業の収益、家計消費ともに拡大基調を続けていて、頭打ちを強く示唆するような経済指標も出ていない。
このアメリカ経済で、とりわけ注目されるのがシェール革命の進展である。シェール革命はアメリカに安くて豊富なエネルギーをもたらしており、それを背景に物価は安定し、一部の化学産業などが世界一の価格競争力を有するに至るなど産業競争力は増している。
また、高止まる地政学的リスクにもかかわらず原油価格が急落しているが、その理由を世界需要の減退だけに求めてはならない。原油価格(WTI)とアメリカの原油輸入額増減との間には大きな相関があり、シェール革命が本格化した2008年以降のアメリカの原油輸入額減少が原油価格低下に大きく影響していると言える。
ちなみに、2000年以降のアメリカの原油輸入額とWTI原油価格との相関を元にした推計では、アメリカの原油輸入額減少によって現在の原油価格が75ドル程度にまで低下してもおかしくない(図表1)。