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「補助金に頼らない地域おこしを住民総参加で実践する」というポリシーを胸に、自治会長に就任した豊重さん。感動を与えることで、反対派を味方につけることに成功したが......
人を動かす地ならしが済むと、いよいよ皆を巻き込んだ行動に入った。まずは、集落の皆が集う“場”作りだ。町有地にあった民間のでんぷん工場跡。 住民総出で、雑草の除去を行い、土地の整備、休憩所の建築、給排水工事……、休日ごとに作業は進められた。丸太、角材などの材料も住民が持ち寄り、大工、左官経験者を中心に皆で動いた。労力を出せない高齢者は寄付を出した。実は、豊重さん自身は「本当に皆集まってくれるかどうか」不安だったという。しかし、それも杞憂に終わった。こうして予算8万円で「わくわく運動遊園」が完成した。同時に、皆でひとつのことを成し遂げるという一体感が住民の間には生まれていた。
すべての住民にボーナスを支給
この「遊園」、前は草ぼうぼうの荒れ地だったそうだ。これを地域の人だけで再生させたのには驚く。いまでは「やねだんの清水」と名付けられたわき水飲み場、陶器を焼く装置、オブジェ、さらにはそば屋さんまで作られている。
次の活動の目的は、自主財源の確保だった。「お上から降りてくる補助金頼みでは、アイデアも行動も生まれないし、活動の継続そのものも難しい。自分たちで考えて知恵を出して行動する。この試行錯誤のなかで、自ら汗を流す、つまりは活動参加が生まれ、人びとの出番がでてくる」と、豊重さん。
自主財源の確保で最初に行ったのが、サツマイモ(地元の人はカライモと呼ぶ)の栽培。土地は有志の遊休地を無償で借りた。苗を植える高校生、トラクターで参加する人、長年の経験から目分量で苗の量をそろえる高齢者。サツマイモのでんぷんを業者に販売するこの事業での収益で、元教師だった住民を活かした「寺子屋」の開設、高齢者世帯への緊急警報装置を設置した。収益の拡大は、凄まじいものがある。96年度の1万円からスタートし、02年に122万、05年年度には495万円になった。
それから、集落が抱えていた積年の課題、家畜の糞尿の臭いの解決にも取り組んだ。「洗濯物を洗いなおさなければならない」「臭くて昼寝もできない」という状況だった。豊重さんは、鹿児島大学で土着菌(山や田畑に生息する微生物)を使った悪臭対策の研究が行われているのを知り、畜産農家に呼びかけて研修に向かった。高齢者の多くは「私たちにはできない」と弱音をはいたが、豊重さんは「やってみよう」と行動に移った。