『ローカル』によると、当時、ノルウェーの国営テレビNRTはこの企画を拒否したが、テレビ局TV2が採用した。ドラマの制作には、『ドラゴン・タトゥーの女』を製作したスウェーデンのスタジオが参加している。
問題のドラマは、ノルウェーのTV史上最も金が掛かったもので、すでに英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、スペイン及びベネルクス三国に供給されている。
ロシア大使館は、このドラマに関して抗議声明は発出しない方針であることを確認している。
(翻訳終わり)
このドラマの興味深い点は、ロシアが単なる侵略者ではないという点だ。すなわち、ロシアは、石油ガス施設は占領するがノルウェー自体が占領されることはなく、日常生活は普通に続いていく。しかもロシアはそれ自身の思惑のみでこの占領を行う訳ではなく、石油採掘利権の維持を目論む国際社会の暗黙の支持を受けてこの奇妙な占領を遂行する……冷戦後、大国間の戦争が考えがたくなった世界での武力紛争の形を考える上で、荒唐無稽ではあるが完全にそうと切って捨てることもできない奇妙なリアリティをドラマ『占領』は持っている。
ちなみにロシアが旧ソ連諸国とともに結成している集団安全保障条約機構(CSTO)の2013年度演習「破れざる兄弟愛2013」も、「大国の支援を受けた非合法武装勢力が天然資源のコントロールを目的として旧ソ連某国の村を占拠する」という『占領』とよく似たシナリオを採用していた。また、先日、北方領土問題に関して「ハラキリ」発言を行って物議を醸したロゴジン副首相も(同発言についてはこちらの拙稿を参照。http://bylines.news.yahoo.co.jp/koizumiyu/20150824-00048792)、北極圏の資源地帯を外国の武装勢力が占拠する可能性に言及したことがある。『占領』に反発するロシア自身も、実は似たようなことを考えていたわけだ。
ただし、ウクライナ危機を経た今になってこのドラマが放映された背景には、やはりロシアに対する脅威認識の高まりがあることも無視できない。従来、スカンジナビア諸国は米ソの緩衝地帯として中立的な立場を保つ国が多かった。ソ連の消極的な勢力圏であるフィンランド、中立のスウェーデン、NATO加盟国であるノルウェーというように、「ノルディック・バランス」と呼ばれる微妙なグラデーションが成立していたのである。
しかしウクライナ危機以降、こうしたバランスには疑問が呈されるようになってきた。すでにスウェーデンとフィンランドは、NATOとの訓練や物品役務の融通などを簡易化するための受け入れ国支援覚書(Host Nation Support memorandum)を結ぶ意向を示したほか、フィンランドのストゥブ首相やスウェーデンのビルト外相らは、自国のNATO加盟を推進すべきであるとの見解を示している。
冷戦後、両国はそれまでの中立政策からNATO接近へと舵を切っていたが、この流れがさらに強まった形だ。NATO加盟そのものについては両国とも国内政治上容易ではなく、近いうちに加盟が日程に上る可能性は低そうだが、ウクライナでの不安定状況が遠く北方のスカンジナビア半島まで及んでいる状況は注目に値しよう。
ウクライナ危機の真相 プーチンの思惑
小泉 悠・ 佐々木正明・廣瀬陽子・亀山郁夫・ 佐藤 優・Wedge編集部
▼ご購入はこちら
Kindleストア
iBooks
楽天kobo
Kinoppy(紀伊國屋書店)
BookLive!
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。