日本のメディアはほとんど報じることがなかったが、ロシアで先月末から今月上旬にかけて、有名人となった日本人がいる。この日本人についての報道から、国際舞台で欧米各国を振り回すロシアの対米感情をうかがい知ることができるのではないか。
今月5日、36歳の日本人男性がモスクワから日本に帰国した。帰国までに男性は、モスクワ近郊にあるシェレメチェボ空港の国際線ターミナルに2カ月以上にわたって住みついていた。
5月29日の現地時間午後7時発東京行きのアエロフロート262便に搭乗するはずだったこの男性。出国手続きを終え、ボーディングブリッジに向かう途中の制限区域で突如として帰国便に乗ることを止め、そのまま区域内にとどまることを決めてしまう。男性は観光ビザで入国しており、有効期限は5月1日から30日間。ビザが切れても、制限区域内にいるかぎりロシア国内の法律の適用対象外で強制退去の対象となることもない。
この男性のことが一斉に報じられたのは、2カ月が経った7月31日。ロシア国営テレビ局の朝のニュース番組は、「シェレメチェボ空港が日本人ジャーナリスト・自由思想家の避難場所となった」として、男性が日本への帰国を拒否し、ロシア国籍の取得を希望していると伝えた。
この時のニュースでは、この男性が制限区域内の柱のかげにスーツケースや寝袋などを広げて生活している様子が映し出された。所持金が底をつき、「私は食事をしたいです。お腹がすいています」と書かれた紙をカバンに張りつけ、空港関係者から奢ってもらったとおぼしきハンバーガーを美味しそうに頬張るシーンまではさまれている。別のメディアには、本人のパスポートの映像まで映し出された。そこには本籍が静岡県とあり、取材した記者には、自分の職業をジャーナリストと答えている。
トム・ハンクス主演の映画『ターミナル』を地で行く
「新しいスノーデン」、「第二のスノーデン」
トム・ハンクス主演の映画『ターミナル』を地で行くかのようなこの男性は、ロシアではテレビや新聞、ネット・メディアで大々的に報じられ、日本でもロシア・メディアの報道を転載する形でごく短く報じられた。男性の不可解な動きがロシアのメディアに受けた背景には、多くのメディアが「新しいスノーデン」、「第二のスノーデン」という見出しをつけたことからわかる。
スノーデンとは言うまでもない。米国の※国家安全保障局(NSA)が行っていた世界的規模での盗聴の実態を暴露した挙げ句、モスクワに逃亡し、二週間にわたって同じシェレメチェボ空港に滞在し(こちらは制限区域内のホテルだが)、その後、ロシアへの亡命が認められた人物だ。
※「国土安全省」から修正しました。