WEDGE REPORT

2015年10月27日

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 実際、被曝量の高い、立ち入り禁止区域内では、事故直後、動植物に様々な急性作用を与えた。針葉樹や土壌無脊椎動物、そして哺乳類の死亡率が上昇し、死産を含む動植物の生殖不全もみられた。

 しかし、被曝線量が年々、低下するにつれ、さまざまな生き物も急性の放射性作用から次第に解放されていった。そうして、動物たちの集団における生存能力は生殖と、近隣の地域からの移動により、著しく回復した。水中の生き物に関しても同じ事が言え、これまでの調査で、川魚の体内に蓄積されたセシウム137の放射能濃度も事故直後に比べ8分の1以下に低下していることが確認された。

 また、森林のエコシステムが放射能を〝リサイクル〟し続けるため、キノコ類やベリー類に放射性物質が高濃度で取り込まれていることもわかっている。こうしたものを餌にして内部被曝する動物の放射能汚染は長期にわたり、続く可能性がある。

放射能が野生動物にとって良いということではない

 今回の論文を作成したポーツマス大学のジム・スミス教授も「この報告書は、放射能が野生動物にとって良いということを意味しない」と話す。

 一方で、米サウスカロライナ大学のティム・ムソー教授は、チェルノブイリ周辺の放射能汚染がどうなっているかは、狩猟など人間の生活行動への影響が少ない鳥類や小型哺乳動物、そして、昆虫たちの生息数を調べなければならないと課題をあげる。

 ムソー教授は、「この研究が表わしていることは、大部分の生き物というよりもむしろ、人間の狩猟の抑圧にさらされている大型哺乳動物にのみあてはまる」と述べている。そうして、今回の研究成果の意義を評価しながらも、「チェルノブイリの動物が、狩猟や補食から守られている他の地域に頻繁にみられるような生態数の増加を達成しているかどうかは何の証拠もない」と断言した。

 原発事故から30年が過ぎようとしているチェルノブイリ周辺の動植物の調査は、福島第一原発事故後の影響を調べる国内外の研究者にも学術的な知見を与えるに違いない。

  
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