エコノミスト誌9月5-11日号掲載の記事が、石油価格の値崩れ続きにより中東全体が脅かされ始めており、10年来の石油ブームによる資産蓄積はあるが、早晩、サウジ等の富裕国にも危機が来るだろう、と警告しています。
すなわち、中東からは戦争、テロ、革命のニュースばかりが聞こえて来るが、多くの産油国はつい最近まで快適な状況にあった。10年続いた石油価格高騰により、巨額の国家資産を蓄積し、新しいインフラや大量の最新鋭兵器を手に入れた。昨年の石油価格下落に対してもこれらが緩衝材になった。しかし、供給過剰の終りが見えず、石油の底値が続く懸念が高まりつつある。
もちろん、その影響は国によって異なる。裕福で人口の少ないカタールは、海外投資からの収入で何年も凌げる。他方、人口4千万のアルジェリアは、今年貿易収支が赤字に転じ、通貨も対ドルで25%下がった。
アルジェリアがアラブの春で平静を保った原因の一つは、政府が賃金の大幅増や多額の公共投資を行えたからだ。石油ブームのおかげで債務は少なく、外貨も潤沢だった。しかし、アルジェリアは今も国家収入の大半を石油とガスに依存している。GDPの13%という重い政府補助金の負担、約25%の若年層失業率を抱えたアルジェリアが、石油価格引き上げの道を模索しようとOPECの会合を要請したのは不思議ではない。
ところが、サウジ等の湾岸産油国はこれを無視した。彼らは、はるかに巨額の蓄えがあるだけでなく、事実上、石油価格下落を推し進める長期戦略を採っている。大規模な油田探査・開発計画こそ縮小されたが、石油生産量は減っていない。サウジ、イラク、オマーンは記録的水準の生産を続けている。
問題は、サウジ等がいつまで待てるか、また、どこまで負担に耐えられるかだろう。アルジェリアと同様、サウジも蓄えをかなり引き出し、外貨準備金は1年前の7400億ドルから11%減少、国債も発行した。また、IMFはサウジの今年の財政赤字を20%と予測しているが、サウジはロシアを上回る国防費を維持、さらに、イエメンで戦争を行い、地下鉄等の大規模インフラ整備を進め、エジプトに巨額の資金援助を行っている。
サウジ、クウェート、アラブ首長国連邦は、しばらくはこうした状態を維持できる。債務対GDP比が世界最低水準(昨年は1.6%)のサウジは、巨額の借り入れが可能だ。また、消費税や財産税の導入、極端に低いエネルギー価格の引き上げ等を実施すれば、財政赤字は解消できる。