「逆オイルショック」と呼ばれるほどの急激な原油安が、いま世界を激震させている。原油安がもたらした連鎖反応から大きな痛手を受けたのが、ほかでもない、エネルギー超大国ロシアである。
その直前までのロシアは、豊富な石油、天然ガスと、ヨーロッパ諸国へ延びるパイプラインによって経済力と政治力を手中に収め、軍事超大国からエネルギー超大国へと変身を遂げていた。
ところが、米国発のシェール革命が急速に世界の勢力地図を塗り変えた。化石燃料の資源枯渇論を後退させ、急激な原油安をもたらしたのである。
ロシア病の再来
こうした動きは、米ソ冷戦時代を彷彿させるシーソーゲームのようにも見える。しかし、本書によると、現在の事態は「ロシア経済がこれまで矯正できないまま手をやいてきた周期的な病態の再来」にすぎないのだという。著者は、これを「ロシア病」と呼ぶ。
本書を読めば、「ロシアのエネルギー・セクターの浮き沈みがロシアの国全体で何が起きているかをみるうえで、いかにユニークな洞察を与えてくれるかを理解してもらえると思う」。
そう著者がいうように、本書は、エネルギーを切り口として、帝政時代からソ連時代、そして現在にいたるロシアの歴史を分析し、知られざる資源強国の内実をあぶりだす。
著者のマーシャル・I・ゴールドマンは1930年生まれ。現在もハーバード大学ロシア・ユーラシア研究デイビス・センター終身特別研究教授として研究と教育に携わっているという。世界的なロシア経済、歴史、政治研究者であり、ゴルバチョフ、プーチン両氏らとも面識がある。両ブッシュ大統領のロシア政策アドバイザーを務めるなど、米ロ両国の内情にも通じている。
とくにプーチン氏とは、ロシア内外の研究者やジャーナリストが毎年秋に意見交換する「ヴァルダイ会議」の場で厳しいやりとりを交わしており、本書にも生々しい場面が描かれている。
<本文にも披露されているとおり、そこでのマーシャルさんは、すくなからぬプーチン体制の首脳たちが公職と国営大企業の要職を兼ねている実状をどう認識しているのか、といった辛口の問いをためらうことなくプーチン氏に投げかけており、そこには、親交のあったゴルバチョフ氏もふくめソ連とロシアの歴代の指導者たちを、真に国民大衆の利益を優先して行動してきたかどうか、という問題意識に立ってきびしく見据えてきたマーシャルさんの面目が躍動している。>
そう訳者あとがきにあるように、著者の立ち位置はイデオロギーや国家ではなく、「国民大衆の利益」というところにあるようだ。読んでいて、主張がすとんと腑に落ちるのは、そうした、ぶれない立ち位置のおかげだろう。