日本ではほとんど知られていないが、CSTO(集団安全保障条約機構)という組織がある。
旧ソ連のロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンの6カ国で構成されており、「集団安全保障」とは銘打っているものの、実態は外敵への共同防衛を謳った集団防衛条約である。かつてはグルジアやウズベキスタンも加盟していたが、加盟国間の関係悪化などを経て現在は上記の6カ国のみが参加している(正確に言えばウズベキスタンは加盟を「停止」している。しかし、完全に脱退した訳ではない)。
CSTOは毎年加盟国内で各級のハイレベル会合を実施しているが、その最高意思決定機関である集団安全保障会議(首脳会合)が9月15日にタジキスタンの首都ドゥシャンベで開かれた。
同会合ではいくつかの興味深い決定が採択されたが、中でも注目されたのはロシアのプーチン大統領による演説である。一言で言えば、これは現在の世界のありようをイスラム過激主義との戦いと位置付け、それによって国際社会から孤立したロシアやシリアの立場を回復しようとするものと言える。以下の本稿では、その内容をいくつかに分けてご紹介したい。
「中央アジア不安定化」の虚実
これも日本ではなじみが薄いが、旧ソ連の南端、アフガニスタンとの国境にタジキスタン共和国がある。1997年まで続いたタジキスタン内戦では、ロシア政府やウズベキスタン政府の支援を受けた政府軍と、アフガニスタンやウズベキスタンのイスラム過激派に支援された反体制派とが激しい争いを繰り返し、政情がある程度安定した後もロシア軍が駐留を続けている。
そのタジキスタンで今月4日、国防省や警察の庁舎が百数十人規模の武装勢力によって襲撃されるという事件が発生した。襲撃を指揮したのはナゾルザダ国防次官とされる。
国防次官が国防省の施設を攻撃するというのは何とも奇妙だが、同人は内戦期に反政府勢力側でタジキスタン政府軍と戦ったという経歴を持つ人物で、背景にはイスラム過激主義とのつながりが指摘される。タジキスタンでは6月にも内務省治安部隊の司令官が「イスラム国(IS)」に参加するという事態も生じていた。
前述のCSTO首脳会議は問題の襲撃事件からわずか11日後に開催されたということもあり、当日はタジキスタン駐留ロシア軍が通りを全面封鎖するなどして厳戒態勢の中で実施された。プーチン大統領の演説も、まずはタジキスタン情勢に関する話題から始まっている。