8月5日付のフォーリン・ポリシー誌で、同誌シニアレポーターのジョンソンが、ロシアは野心的なエネルギー・プロジェクトを次々と打ち出してきたが、エネルギー市場の構造変化は大きく、その実現は困難になっている、との解説記事を書いています。
すなわち、プーチン大統領は、欧州を迂回しアジアへの軸足移動をしようとしている。しかし、それはうまくいっていない。
昨年、プーチンは中国と計4000億ドルもの巨額の天然ガス取引と、戦略的パートナーシップを謳った文書に署名した。また、ロシアは第2のシベリア・パイプラインをひき、欧州とアジアのエネルギー顧客を競わせようと考えていた。さらにプーチンは、EUが黒海を通過する400億ドルのガス・パイプライン計画を阻止したのに対し、ウクライナ迂回のトルコ経由のガス・パイプライン計画を打ち出した。しかし、プーチンのパイプライン構想は混乱しているように見える。最近、ロシアは、これまでの方針を転換し、今後数十年にわたり、ウクライナを経由して対欧ガス輸出を続けざるをえないと判断するに至った。
新プロジェクトは次々に発表されている。バルト海経由パイプライン、ノルド・ストリームは拡大されると発表されたが、ウクライナ経由輸送やトルコ・ストリームが出来れば不要であろう。
ロシアのエネルギー計画が躓いている原因は多いが、その根本原因は壮大なビジョンが現実とぶつかっていることにある。ここ1年の世界のエネルギー市場の変化は大きく、原油・天然ガスの需要は減り、価格も大幅に下がっている。IMFはこの低価格が今年ロシア経済を3.4%縮小させると発表した。エネルギーセクターの多くの大企業が西側の制裁を受けていることも響いている。
米国やその他の天然ガスの新規供給者の登場も、ロシアによる市場支配力を蝕んでいる。オバマ大統領やケリー国務長官、共和党議員らは、米国の天然ガスを将来欧州に輸出する見通しを利用し、ロシアの影響力を削ごうとしている。加えて、オーストラリアなど新たなエネルギー供給国も、アジア市場に狙いを定めているため、ロシアの潜在的顧客は更にその交渉力を高めている。ロシアがガス輸出を地政学的武器として使うことは、もはや出来なくなっている。