しかし、安心はできない。富裕なアラブ産油国は、石油依存を脱却し、経済の多様化を図るべきだ、という最も肝心な教訓を十分消化していない。増え続ける人口と膨らみ続ける国民の期待を考えれば、危機の到来は時間の問題にすぎない、と警告しています。
出典:‘The perils of relying on the sticky stuff’(Economist, September 5-11, 2015)
http://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21663235-persistent-low-prices-threaten-entire-region-perils-relying
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石油の低価格が続けば、アルジェリアのような国のみならず、サウジなどの裕福な産油国にも危機が来るだろう、との予測です。
まず、石油の低価格は続く公算が高いでしょう。供給面では、サウジなどの供給は減らされそうになく、対イラン制裁が解除されれば少なくとも100万バレル/日が追加されます。シェールオイルについては、石油価格の下落でリグの数は大幅に減っていますが、技術革新、合理化などにより生産量はあまり減っておらず、石油価格が55~60ドルになれば、生産量が大幅に拡大すると言われています。米国に加え、アルゼンチン、豪州、中国で生産が始まる可能性すら指摘されています。他方、需要は、中国、欧州などの経済の停滞で伸び悩むか減少しています。そうなると、石油価格の低迷は続き、産油国一般の経済が大打撃を蒙るのみならず、サウジのような裕福な国も安閑としていられません。
サウジの予算を均衡させる石油価格は、IMFによれば106ドルです。現在の価格では、IMFの予測で本年の予算の赤字は約1400億ドル、GDPの20%になります。サウジは外貨準備金を取り崩し、国債も発行しましたが、このままでは外貨準備金は月120億ドルの割合で減っていくと予測されています。それは、サウジが、収入が大幅に減るにもかかわらず、支出を減らせないからです。
まず外交、防衛上の支出があります。スンニ派の盟主として、エジプトに巨額の援助を行い、イエメンで戦争し、他のスンニ派諸国を財政支援しています。そのうえ、いわゆる社会的支出があります。医療、教育費は無料、所得税はなく、生活必需経費は大幅に補助しています。ガソリンはリッターあたり14円、電気は1キロワット当たり1.5円でしかありません。サウジではワッハーブ主義に基づく宗教的規律が厳しく、国民の権利・義務が厳しく制約されている一方で、王族は贅沢三昧の生活をしています。国民の不満を抑えるには、世界一と言われる福利厚生策を続ける必要があり、IMFが政府の補助金の削減を提言しても、サウジ政府は応じるわけにいきません。切るとすれば外交、防衛上の支出が優先でしょうが、イランとの指導権争いはサウジの面子にかかわる問題で、そう簡単に切れないでしょう。
とすれば、サウジの財政の逼迫は避けられず、サウジが外貨準備の取り崩し、国債の発行増にどこまで耐えられるかの問題になってきます。エコノミストが危機の到来は時間の問題であると言っているのは、あながち誇張ではありません。
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