大手キャリアに向けた総務省の要請とは
高市総務相はタスクフォースを「実効性が重要、速やかに政府としての対応方針を策定する」と結び、12月18日には取組方針が総務省から公表され、総務大臣名で、大手携帯キャリア3社に対して講ずべき処置についての要請を行った。その取組方針はタスクフォースで採択された取りまとめを踏襲したものだ。
(1)スマートフォンの(通信)料金負担の軽減
(2)端末販売の適正化等
(3)MVNO のサービスの多様化を通じた料金競争の促進
携帯キャリアへの要請は(1)と(2)に関係するもので、その取組状況を書面で報告することを求めている。
・ライトユーザや長期利用者向けの料金プランを導入すること
・通信の契約と一体化した端末の値引きや料金プランを理解しやすくすること
・MNP利用者への行きすぎた端末購入補助を適正化すること
この要請が高市総務相が言う実効性を発揮し、安倍首相の発言に対する国民の期待に応える結果に結びつくかは疑問だ。「カルテルをして仲よくしましょうねと言っているわけではなくて、各自が独自に自分で判断すると、同じことをしたほうが得だということだ」というタスクフォースでの有識者の言葉のように、大手携帯キャリアがお茶を濁しただけという結果になってしまうのではないだろうか。
会議では、端末や通信の料金はすでに自由化されており、行政が干渉すべきではないという意見もあった。ならば自由競争と市場原理によって端末や通信の価格が決まるように、MVNOの自由度を上げて競争力を向上させ、3社の協調的寡占状態を解消しなければならない。しかし総務省の取組方針と携帯キャリアへの要請は、逆の結果を招く危険性をはらんでいる。
価格以外独自の価値見えぬMVNO
スマートフォン用の格安SIMを販売するMVNOは、携帯キャリアからデータ通信を帯域という単位で調達するが、SIMのエンドユーザには、例えば「月に3Gバイトまでの通信ができるプランが900円」というようにデータ量で提供する。データ通信の量が3Gバイトを超えると通信速度が制限される(遅くなる)が、頻繁に動画を見たりオンラインゲームなどをしないライトユーザにとっては問題にならないだろう。 しかし、MVNOがどのくらいの帯域を調達して、どれだけのSIMを販売しているかは明らかになっていないので、3Gバイトまでの高速なデータ通信が保障されている訳ではない。効率よく帯域を使って、価格と品質のバランスをとることがMVNOの格安SIMビジネスのポイントになる。そこに価格以外の独自の価値は見えない。
MVNOが(例えば)NTTドコモに支払う、Xi(LTE)サービスの2014年度の接続料は、10Mbpsという帯域について月額945,059円だ。それを超えると、1.0Mbpsごとに94,505円増加する。この料金は、総務省のガイドラインに従って毎年見直されており、2008年度は10Mbpsで月額1,267万円だったので、6年で92.5%の値下げが行われたことになる。
しかし「2008年度に比べると2014年度の平均通信速度は41.3倍になっており、NTTドコモと同等の通信品質を維持するための実質接続料は3.1倍の値上げになってしまっている(日本通信)」という意見もある。「接続料については、改正電気通信事業法に基づき、その算定方法等を定める省令・ガイドラインの整備を着実に進め、引き続き、適正性・透明性の向上を図るべき」と言うに留めたタスクフォースの提言(方向性)も、総務省の取組方針には盛り込まれていない。