2022年11月26日(土)

Wedge REPORT

2015年12月28日

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MVNOの存続危機

 一方で、音声通話の料金は、携帯キャリアからSIMごとの従量制で課金される。そのためMVNOは、携帯キャリアのような電話かけ放題や独自のプランを提供することができず、通話料金はほとんどのMVNOが30秒ごとに20円という料金設定で横並びになってしまっている。データ通信が安いMVNOの格安SIMに乗り換えても、通話の多いユーザにとってはトータルでは携帯キャリアより高くなってしまうこともある。

 取組方針(3)の「MVNOのサービスの多様化を通じた料金競争の促進」については、携帯電話番号、端末の所在地、顧客の契約状況などの情報を管理するデータベース(HLR/HSS)をMVNOが保有するための加入者管理連携機能について、来年3月に予定されている改正電気通信事業法の施行に向けて準備中のガイドラインの中で、「開放を促進すべき機能」に位置付け、事業者間協議の更なる促進を図るとしている。

 しかし、MVNOがHLR/HSSを保有することによって、どのような通信サービスを提供できるかは明確になっていない。携帯キャリアのような電話かけ放題や独自の音声通話サービスを提供するためには、さらに携帯キャリアの設備の開放やMVNOの設備投資、そして関連する法令の整備が必要になる。ガイドラインには、携帯キャリアの設備投資やイノベーションに係るインセンティブに配意するほか、その仕組は事業者間協議による合意形成を尊重するという前提もあり、その道筋はつけられていない。

 このような現状のまま、大手携帯キャリアがライトユーザや長期利用者向けの料金プランを導入すると、多くのMVNOは競争力を失ってしまい、格安SIMの市場から撤退する事業者も出るかもしれない。もちろん理解しやすく利用しやすい料金プランの導入自体は、消費者にとって悪いことではない。しかし、それが自由競争と市場原理によるものでなく、大手携帯キャリア3社の協調的寡占状態のままで、総務省の要請に従うための落とし所として決められたものであるならば、冒頭の「数年かけて徐々に事業者自らが段階的に適正化する取り組みを行うものと考えている」という甘い期待だけが頼りになってしまう。

(HLR/HSSの開放は、IoTのためのモバイル通信にとって非常に大きな意味がある。それについては発売中のWedge1月号のWEDGE REPORT「モバイル・ガラパゴスが日本のIoTを阻害する」で詳しく説明しているので、是非お読みいただければと思う。)

「実質0円」は容認

 タスクフォースは、スマートフォンを「実質0円」にするような高額な端末購入補助は著しく不公平であり、MVNO の参入を阻害するおそれがあると指摘したが、総務省の要請には「店頭において端末販売価格の値引きや月額通信料金割引等に関する利用者の理解を促すための措置を講ずること」としか記されていない。総務省は「MVNO の参入を阻害するおそれがある著しく不公平な実質0円」を容認したことになる。第5回のタスクフォースでは、「実質0円」の禁止を直ちに型落ち端末にまで適用すると、売れなくなって携帯キャリアに在庫がたまってしまうので配慮が必要だという意見も出た。

 最終的にはすべてについて「実質0円」を禁止すべきだが、時間をかけることによって携帯キャリアが調達から調整するようになるという。ここまで携帯キャリアに気を使わなければならない理由は何だろうか。

 製品の割引をすることは問題ではないだろう。型落ちした製品や売れ行きの悪い製品を値引きして売ることは普通のことだ。問題なのは値引きではなく、通信の長期契約と絡めて、あたかも端末を値引きするかのような誤解を与えかねない販売方法だ。

 端末の割賦代金が月々の補助金によって「実質0円」になるが、長期(2年)契約を途中で解約すると、割賦の残金を支払わなければならない。髭剃りのホルダーと替刃のように、最初に購入する製品の価格を安くして、その後の消耗品や有償サービスで利益を得るビジネスモデルの場合、消耗品の購入や有償サービスをやめた場合は製品が使えなくなるだけだが、「実質0円」の場合はペナルティ(残金)を払わなければならない。総務省は、それを利用者に周知徹底するよう要請しているだけで、その販売方法を止めさせるつもりはないらしい。

 このような総務省の過保護によって、いまだに日本の通信産業はガラパゴス状態が続いている。2015年の上半期のスマートフォンの市場を見ると、日本ではiPhoneが50%を占め、ソニーモバイル、シャープ、富士通などの日本メーカも35%程度のシェアを取っている(MM総研)。しかし世界市場でのiPhoneのシェアは16%で、5%以上のシェアを持つ日本メーカはいない(IDC)。

 日本メーカのスマートフォンは、日本というガラパゴスでしか生息していない。自由競争と市場原理が働かない日本の通信産業では、世界に通用するイノベーションは生まれない。

  
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