2024年12月23日(月)

WEDGE REPORT

2016年1月15日

 2015年11月8日にミャンマー(ビルマ)で行われた総選挙では、アウンサンスーチー(1945-)率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝を収め、テインセイン大統領の与党・連邦連帯発展党(USDP)は大敗を喫した。

総選挙を控え、ヤンゴンで有権者に投票を訴えかけるアウンサンスーチー氏(Getty Images)

アウンサンスーチーが勝利収めた総選挙 

 秘密投票と公正な開票が保証され、結果が無視されることのない、民主国家では「あたりまえ」の選挙が、ミャンマーでは実に1960年以来55年ぶりのできごとだった。長い間、この国では軍が政権の中心に居座ったため、選挙といっても形だけの信任投票か、たとえ複数政党制で実施されても政府が結果を無視したり(1990年総選挙)、はじめから有力政党の参加を封じ込めたりする不完全なものだった(2010年総選挙)。

 今回、有権者は圧倒的な大差でNLDに勝利をもたらし、アウンサンスーチーを指導者とする民主化推進への強い意思表示を行った。NLDは民族代表院(上院)の80%、人民代表院(下院)の77%の議席を獲得、両院には軍人議員の枠がそれぞれ25%ずつ存在するが、それを含めても上院の60%、下院の58%の議席を占有するに至った。これでNLDは大統領を選出する決定権を獲得し、本年3月の政権交代に向けた準備を開始した。

 NLDの当選者の大半は無名の新人である。そのことからわかるように、国民は各選挙区のNLD候補者に魅力を感じて投票したというより、アウンサンスーチーに投票したのだといえる。彼女への期待と支持は軍政下の1990年代から一貫しており、そこに陰りはいっさいみられない。

アウンサンスーチーに対する4つの誤解

 日本でもこの間、アウンサンスーチーに関するニュースが増え、概ね正確な報道がなされてきた。しかし、政治指導者としての彼女の能力が未知数だとして疑問を投げかけ、国民が過去の軍政による抑圧に執着し、その反動として「感情的にアウンサンスーチーを選んだ」といった書き方も一部に見られた。政治指導者としての能力が未知数なのは、これまで国民の圧倒的支持があったにもかかわらず、一度も政権の座に就くことが許されなかったのだから当然である。誰でも「初めて」を経験しないとその道に入って能力を磨くことはできない。また、「感情的にアウンサンスーチーを選んだ」という指摘も、長期に及んだ軍政への嫌悪感が強かった国民の多くからすれば、自然な反応であったといえよう。

 アウンサンスーチーに対する報道が多様化することに問題はない。しかし、もし誤解に基づく報道や分析があるとすれば、ビルマ近現代史を専門とする筆者として、その問題性を指摘しないわけにはいかない。ここでは一部メディアを含め、日本人ビジネスマンや政府関係者との会話を通じて、筆者がよく耳にするアウンサンスーチーに対する誤解を4つに絞って紹介し、その背景を探ることにしたい。


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