このような見方はロシア側でも早い段階から共有されていた。たとえば元戦略ロケット部隊司令官でロシア有数の核戦略家としても知られるヴィクトル・イェーシン氏は、インターファックス通信に対して「北朝鮮が核実験を行ったことはたしかだろうが、水爆かどうかは疑問だ。北朝鮮がどのような物理的インフラを持っているのかについては情報がない」と述べた。
一方、前述のノーヴォスチ通信は、「爆発規模が小さすぎ、水素爆弾そのものとは言えない」としつつ、水素爆弾による実験を試みたが失敗した可能性や、水爆起爆用の小型原爆の実験だった可能性を指摘する原子力専門家の談話を掲載。国営TVの「チャンネル1」も、実験が失敗だったのでなければ、より強力な核兵器の開発を目指した要素実験だったのではないかとの別の専門家の見解を称した。
水爆でないことは明らかだが、ただの失敗と片付けるのは尚早、というところであろうか。
ロシア政府は激しく反発
ところでロシアといえば北朝鮮の友好国というイメージがあり、それはある程度まで事実でもある。しかし、弾道ミサイルや核兵器の開発に関してはロシアの立場は厳しく、2009年の2回目の核実験後は国連安保理で採択された制裁措置に対応し、北朝鮮に対する全面的な武器禁輸措置を現在まで続けている。
今回の核実験に関しても、ロシア外務省は核開発を禁じた国連決議違反であるとして北朝鮮を厳しく批判するともに、地域の情勢が緊迫化する可能性があるとして周辺国に行動を抑制するよう求めた。さらにロシアは北朝鮮の核実験に対する国連の制裁強化に同意しており、近く安保理で制裁決議が採択される見通しである。
ロシアが北朝鮮の核・弾道ミサイル開発に厳しい姿勢を示す理由は、ミサイルの破片や放射性物質が極東部に到達しかねないことだけではない。
第1に、北朝鮮からの核技術流出によって核不拡散体制が動揺する可能性がある。これによって核保有国が増大すれば核大国としてのロシアの地位は相対的に低下する上、国際テロ組織の手に核兵器がわたった場合、ロシアに対する核テロの危険性が出てくる。ロシアは北カフカスでイスラム過激派に対する対テロ作戦を長年続けており、最近ではIS(イスラム国)にも多数の旧ソ連国民が参加していることから、テロへの懸念はますます高まっている。昨年末に改訂された安全保障政策の指針「国家安全保障戦略」でも、核テロが安全保障に対する懸念要因の一つに挙げられた。
第2に、朝鮮半島における軍事的緊張の高まりは、米軍のプレゼンス増大を招く。そもそも中露が北朝鮮の体制を支持するのは米国の同盟国である韓国と直接に国境を接したくないという緩衝地帯的発想を基礎としているが、その北朝鮮のせいで米国の軍事プレゼンスが増大するのでは本末転倒である。
また、北朝鮮の弾道ミサイル開発は、ロシアが反対する西側諸国のMD(弾道ミサイル防衛)システムの開発・配備を促すという側面も持っている。ロシアは、北朝鮮には長距離弾道ミサイル開発能力はないと度々主張しているが、これは北朝鮮のミサイル開発を擁護している訳ではなく、MD開発への牽制と見るべきであろう。