中島厚志が読み解く「激動の経済」

2016年2月4日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 「安全資産」とは、本来的には破綻や価値変動のリスクが少ない国債、現金や金を指す用語である。それが、サブプライム問題とリーマンショックがあった2008年以降、経済ショックが欧米諸国よりも小さいと見られた日本経済の円を「安全資産」と称するようになり、近年のユーロ債務危機やウクライナ情勢緊迫化時にも地政学的リスクが少ないと目された日本の円が「安全資産」として買われた。

投機筋の目論見と日銀の狙い

 ところが、2014年半ば以降は、株安やドル安等市場が荒れたときのリスク回避時に安心して買える「安全資産」として円が定着してしまった。この「安全資産」に本来の安全な資産としての意味が乏しいのは、日本の深刻な財政赤字や少子高齢化を見れば明らかである。直近の「安全資産」円は、市場混乱時に投機資金が最も利益を得やすく、かつ乗じやすい通貨が円であることを言い換えているに過ぎなくなっている。

 日銀は物価の安定を図るのが本旨であり、円相場に直接関与する立場にはない。しかし、市場混乱時に円が投機筋に最も旨みのある資産であることは、日本の物価と景気にとって有害以外の何物でもない。特に、投機筋の理不尽な「安全資産」としての円買いに対しては、実需ではない円資金の国内預金滞留にマイナス金利をかけて利益を削ぐのが最も効果的な対策であると言える。

 今回の決定は、低調な世界経済と年初来の内外市場動揺で、安定した物価上昇と景気拡大が脅かされかねない切迫な状況を鑑みれば適時適切だった。物価がふたたび下落しかねず、景気も低迷しかねない懸念が高まった年初来の経済金融情勢にあって、日銀は円高阻止を通じて物価と景気を支える即効性ある最善策を打ったと言える。

  
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