それは、日本政策投資銀行(DBJ)への融資要請だ。情報筋によると、革新機構が年明け、DBJに対して要請したニューマネーはなんと7000億円規模だったという。債権放棄でいくらメガバンクが機嫌を損ねたとはいえ、死に体シャープのエクイティ(資本)もデット(負債)もとどのつまりは公的資金となれば、国民の納得は得られまい。革新機構の担当者らの異様なのめり込み具合がよくわかる。
今になって偶発債務の存在を盾にシャープと銀行に対し条件の切り下げを要求する鴻海の交渉巧者ぶりと、何の決断力もなくただ時間を無為にするシャープ経営陣のだらしなさを見て、革新機構と経産省からは「突っ込まなくてよかった」という声が漏れ聞こえてくるが、それはあくまで結果論であって、原則論を無視した「悪手」をいくつも打ちながらシャープにのめり込んだ過去は消せるものではない。
革新機構はPEかVCか
革新機構の発足は09年7月である。前年08年から09年にかけて、財務省の審議会と、経産省の審議会がそれぞれ報告書を出したのが出発点だ。
財務省は、財投資金をそれまでの融資中心から産業投資へ切り替えていくというビジョンで、キーワードは「ペイシェント・リスク・マネー」(長期のコミットが可能な資金)だ。それに対し、経産省は停滞する産業構造の改革を掲げ、「オープン・イノベーション」(自前主義からの脱却)を唱える。
この2つの文脈は互いに重なり合う部分はあるものの、前者はよりベンチャー投資(VC:ベンチャーキャピタル)的であり、後者はより事業再編・企業再生(PE:プライベート・エクイティ)的である。革新機構は、無から有を生むという「革新」を共通項にしながら、VC的文脈とPE的文脈を併せ持つファンドとして生まれた。
しかし、発足したのはリーマンショックの嵐が吹き荒れた頃。予算額は当初820億円の政府出資だったのが、麻生政権最後のリーマン対応補正予算で8000億円もの政府保証枠が追加された。ここで、リーマンショックで痛手を被った大企業の再編、つまり金のかかるPEに重きを置いたファンドとして動き出すことが決まった。
リーマンショックが落ち着いた13年、PEに寄りすぎた軸足を、VCとのバランスを取る形に修正する動きが起きる。根拠法も産業競争力強化法に変わり、10億円以下の案件、つまりアーリーステージのベンチャーへの出資は、手続きを簡素化する迅速化案件と位置づけられた。組織的にも従来の投資事業グループから、新たに戦略投資グループが切り出され、VC部隊の機能強化が図られたのである。
迅速化案件と体制強化で、革新機構のベンチャー投資は急速に伸びてきた。15年3月末時点における支援決定件数(累計)で見ると、全85件のうち、64件がベンチャー投資である。ただし、1件あたりの金額は小さいため、支援決定金額で見ると、全7993億円のうち、ベンチャー投資は21%で、事業再編が58%を占めている。
収益的に貢献しているのは圧倒的に事業再編(PE)である。2000億円を出資したJDIの上場では、革新機構は約700億円のキャピタルゲインを獲得し、1383億円を出資したルネサスエレクトロニクスでは、含み益が約8000億円にまで膨らんでいる。ベンチャー投資は1件10~30億円といったゾーンであるため、仮に失敗が続いたとしてもPE側のアガリと比べれば大したことはない。
しかし、革新機構の本当の危機は、なぜかこのベンチャー投資分野で起きているのである。