2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2009年12月1日

 「(普天間移設先について)政府としての結論を出す前に、沖縄の皆様方の理解だけは、最低限得られていなければ話にならない。慎重に沖縄の皆様方のお気持ちも理解させていただきながら、最終的な結論を出したい」

 鳩山首相は2日の衆院予算委でこのように繰り返したが、この発言自体、沖縄の人々が米軍基地の負担で苦しんできた長い戦後への理解の浅さを露呈している。

移設問題が迷走する普天間飛行場
(写真提供:AP Images)

 沖縄の人々は、27年間の米国占領時代、1972年の本土復帰後も、広大な米軍基地による騒音や危険被害、健康障害、さらには米兵による犯罪など、複合的な苦難との共存を強いられてきた。それが政治闘争ともなり、自力による経済発展の阻害要因ともなってきた。基地問題で「沖縄の皆様の理解を得る」のは、「最低限」どころか、限りなく高いハードルだ。家の隣に基地を作るがいいか、と打診されて積極的に応じる沖縄県民、いや日本国民がいったい何人いるというのか。

 首相答弁を聞いた沖縄のある企業幹部はこう冷ややかに語った。「首相が本当に普天間の県外移設を実現できるならともかく、それ以外なら、県民のこれまでの負担の重さを軽視した“空疎な甘言”だ」

 岡田克也外相の答弁は、さらに深刻だ。外相は、空軍の嘉手納基地に海兵隊の普天間飛行場の機能を統合する「嘉手納統合」案を推している。

 だが、現行計画の移設先の名護市が、条件付きで「やむをえない」との受け入れ姿勢を示したのに対し、嘉手納基地周辺では、嘉手納町など各自治体が「断固反対」と猛反発している。「普天間移設を受け入れる自治体など、全国どこを探してもない。名護市が受け入れることは、奇跡だと思ってほしい」と、名護市の島袋吉和市長は、困惑をあらわにする。

 外相は2日の衆院予算委で、嘉手納案にこだわる理由について、「コストが安い」ことに加え、「(移設実現が)早い」と説明した。

 だが、これだけ反対が強い各自治体の「理解を得る」には、膨大な時間がかかる。しかも、今年2月には、騒音による健康被害を理由に、嘉手納の地元住民5500人以上が国を相手取って起こした「新嘉手納基地爆音訴訟」で、国が約56億円の損害賠償を支払う判決が下されたばかりだ。この状態で「移設が早く終わる」と考えるなら、地元との合意形成を軽く見ているとしか思えない。

 沖縄県の稲嶺恵一・前知事は現職当時、筆者にこう語ったことがある。

 「沖縄という所は、代々続いた苦しみに対するマグマが地中深くでうごめいていて、何かをきっかけに噴き出すと、しばらく止まらなくなる。静かに見えても人々のマグマは消えない。そのことを東京がどれだけわかってくれるか」

 鳩山首相が確たる根拠も示さずに「県外移設も選択肢」と言い続け、外相が展望のない嘉手納案にこだわり続けている間に、県外移設を求める県民大会が開かれるなど、県民のマグマは久々に噴き出し始めている。


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