日本最大の小売業であるセブン&アイ・ホールディングスの株式を大量に取得した米国のアクティビスト「物言う株主」と言われるファンドでのサード・ポイント(本社ニューヨーク)は、「業績が悪化している傘下の総合スーパーのヨーカ堂を分離させて再建すべきだ」などと、セブン&アイの経営に注文を付けていた。こうした中で、セブン―イレブンの井阪隆一社長を交代させるトップ人事案がセブン&アイの指名・報酬委員会から提案されたが、7日のセブン&アイの取締役会では社外取締役などの反対多数で否決された。
指名報酬委員会委員の独立社外取締役が反対したにもかかわらず、セブン&アイの実力者である鈴木敏文会長兼CEO(83)の意向を受けて提案された交代人事案が否決されたことで、鈴木会長は同日夕に記者会見し、この責任を取って引退を表明した。トップ人事をめぐるセブン&アイグループ内の対立が深まる中で、サード・ポイントの主張が結果的にセブン―イレブン・ジャパンの後継トップ人事にも影響力を与え、セブン&アイグループを長年にわたり率いてきた実力者鈴木会長を辞任に追い込んだと言えそうだ。
ソニー株など取得
サード・ポイントは1995年にダニエル・ローブ氏によって設立、主要国の株式に投資して運用している。代表のローブ氏はウォーバーグ・ピンカス証券の出身で、13年にソニーの株式を取得、さらにIHI、ファナック、ソフトバンク、スズキなどの株式を取得してきた。13年4月には全世界で130億ドル(1兆4300億円)の資金を運用、現在は約2兆円の資金を運用しているのではないかとみられている。
サード・ポイントが最初に手掛けた日本株がソニーで、ソニーに対しては映画・娯楽部門の分離を要求していた。13年当時は同社の柱であるテレビ部門が不調だったことから、将来的に成長が期待できる映画・娯楽部門を切り離すことがソニーの企業価値を上げることになるというのが同ファンドの言い分だった。ソニー経営陣はこの要求には応じていない。
産業用ロボット大手のファナックに対しては、15年3月に自社株買いと増配を要求した。これに対してファナック側は株主還元策を発表、同月19日にはこの発表を受けて増配が期待できるとして株価が急騰、上場来高値をつけた。ファナックはかねてから現預金を大量に持ち、無借金の超優良会社と株式市場では見なされてきた。しかし、同ファンドから「それほどの現預金があるのなら、資金を遊ばせておかないで株主に還元しなさい」と厳しい指摘を受けることになった。
日本の大企業の大株主は、これまで金融機関など「物言わぬ」機関投資家が大半だった。最近は日本の投資家の中にも、前向きな取り組みを怠り、ぬるま湯経営を続けている企業の株主総会での議決案に賛成しないなど、一部で「物言う」株主が登場してきているが、全体的には「物言わぬ」株主がほとんどだ。