FF社ではVPAにより「いかなるセグメントの車でも迅速にデザイン、生産を行える」としている。ただし今年1月に発表されたコンセプトモデル、FFゼロワン以降は新たなコンセプトは発表されておらず、市販モデルのプロトタイプなども依然謎のまま。ゼロワンはレースカー仕様のデザイン、装備であり、市販化されればその価格は軽く10万ドルを超えると予想できる。現在テスラモデル3、GMボルトなどの廉価版EVに注目が集まる中、FF社がどのような価格帯でどんなスペックのEVを発売するのかが今後のEV市場を左右することになりそうだ。
一方、米国のEV市場は現在大きな転換期にある。テスラが来年に発売予定のモデル3は4月13日現在すでに予約注文が40万台に届く勢いだ。これに対抗する3万5000ドルのGM「ボルト」は今年3月、2017年モデルが先行発売に踏みきり、人気となっている。
今年3月の米EV売上は、1位のテスラモデルSが3990台、2位の先行販売17年型ボルトが1865台、以下テスラモデルX1860台、日産リーフ1246台、フォードフュージョンEV1238台となった。2015年の販売台数は初めてテスラが日産を抜いて総合1位となるなど、テスラへの注目度が上がっている。
具体的なモデルは未発表のまま
一方のFFは新車発売を「2020年までに」と発表しているものの、まだ具体的な日程やモデルは明らかにされていない。しかしFFではこの状況を「大歓迎だ」と表現する。テスラ人気によりEV全体への注目度が上がることでFFが新たに投入する車も市場に受け入れられる、またEV向けのチャージステーションの充実などのインフラ整備も進む、というのがその理由だ。
現在のFFの従業員は700人程度だが、ラスベガス工場がオープンすればここに生産だけではなくエンジニアリング、広報、総務などの部署も作られる。そうなれば北ラスベガスに本社機能も移る可能性があるが、現在本社があるカリフォルニア州も引き止めに懸命だ。昨年カリフォルニア州知事直属のビジネス・経済開発室は、FFに対し「1990人の雇用創出と新たな3億ドルの投資を条件に、法人税控除などで1270万ドルのパッケージを与える」という文書を交わした。今後のネバダとカリフォルニアの駆け引きにも注目が集まりそうだ。
さらに、FFの市販モデルを占う上で目が離せないのが、同社の戦略的パートナーと言いつつも実質的なオーナーなのでは、との噂が絶えない「中国のネットフリックス」LeEcoの存在だ。LeEcoはLoTの分野でアストンマーチンと提携しているが、それを一歩進め、アストンマーチンのEV、ラピードEを共同開発する、と発表した。このアストンマーチン製の新型EVとFFのEVの関係性はどうなるのか、など興味は尽きない。
米国ではテスラがEV販売ナンバーワンに躍り出たが、世界で最も売れているEVは中国BYD製のものだ。BYDはカリフォルニア州でEVバスを生産しているが、乗用車の生産販売にも強い興味を示している。さらに米のバッテリー会社A123と元テスラのライバルだったフィスカーを買収した中国企業も、昨年末からフィスカーのプラグインハイブリッド車の生産再開に乗り出している。
FFは中国資本の米EV市場への切り込みの象徴となるのか。今後EV市場の急激な成長が見込める米国で、米中によるEV覇権の争いは激化しそうだ。
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