2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2016年4月27日

「電力大手10社の発電能力は震災前の設備ベースで約2億kW強。約3500万kWの原子力を全て止めても、ぎりぎり夏のピーク需要を賄えるくらいの供給力を持つ。それに対して新電力の供給力は1000万kW台とみられ、全くレベルが違う。小売に参入した新電力は、不透明な自社電源開発には参入せず、そのうち再稼働する原発の安い電力を電力大手から調達すればいいと考えるのが普通」(関係者)

 自社電源を持たない非エネルギー系新電力としてもっとも有力なのは東急でんきだ。

「東急でんき」ウェブサイト

「東急沿線と言えば日本全体でもっとも所得水準の高いエリアの一つ。エコ意識の高い主婦層も多く、反原発、反東電的なムードもある。電気使用量が多ければメリットあるプランも提示しやすいし、ハウスカードやケーブルテレビなどグループ会社のサービスもセットにできる。駅を中心にした地域密着の営業活動もできる東急さんが羨ましい」(他の新電力幹部)。

 これだけの顧客基盤、営業基盤があれば、将来的には電力価格をもっとも差別化する要素である電源開発にも参入したほうがよさそうに思える。しかし、東急パワーサプライの村井社長はWedgeのインタビューに対し、「リスクのある電源開発への参入は特に考えていない」と答えた。「電力事業は決して儲かるビジネスではない」と繰り返す。

 東急パワーサプライの執行役員に犬養淳という人物がいる。15年10月6日の電気新聞によれば役職は企画グループ長。電力会社で「企画部門」と言えば、重要な情報が集まる中枢セクションだ。Wedgeは、犬養氏が東電からの現役出向社員であるという情報をつかんだ。

 前職は東電千葉支店副支店長。内部情報によれば、今年に入っても東電社内の会議に出席しているという。

 わざわざ競争相手に幹部人材を出向させる東京電力と、それを企画部門のトップに据える東急パワーサプライの狙いは何なのか。

 インタビューの終わりに、村井社長に直接、出向の意図を尋ねた。

「転籍ですね。うちに入ってます」。表情を変えてこう答えた村井社長は、「次があるので」と席を立った。

 後に広報担当者に尋ねると、「転籍したかどうか回答は控えたいが、当社の社員である」「執行役員かどうかも回答を控える」とした。

 東京電力の広報に確認すると、犬養氏は現在も東京電力エナジーパートナーに在籍する現役の東電社員であることを認めた。14年7月末に、東急本体からの要請に応える形で出向。東急本体から東急パワーサプライに再出向していると聞いている、という。

 東京電力からすれば、犬養氏が活躍すればするほど、競合相手に顧客を奪われることに繋がる。営業畑の幹部社員を競合相手に出向させて電力事業に関わらせるのは尋常ではない。東急からすれば、新電力としての重要情報が東電に流れれば死活問題だ。

 ここで両社がもともと協力関係にあるのではないかという推測が働く。「電力調達において東電と東急パワーサプライは互恵関係にあるのか」とのWedgeの質問に対し、両社は「回答できない」の一点張りだったが、否定の言葉はない。

 東京電力からすれば、他のエネルギー企業に顧客を奪われれば、卸供給すらできず一番の損失となる。「反東電ムードは強いから、一定程度は取られる。どうせ取られるなら確実に卸供給できる強い新電力とパイプをもっておくほうがいい」。東急パワーサプライとしても、利幅の小さい電気事業でリスクは取りたくない。「電力調達は結局東電との関係次第だから新電力としての魂を売ってでも人的パイプをつくっておいたほうがいい」。さしずめそんな判断だったのではないか。

 そうであれば、ソフトバンクのように販売代理店となることを選択して、「powered by TEPCO」と明示した方が消費者に優しい。東急でんきは、東電のステルス部隊なのだろうか。

電力自由化が高める電気料金の上昇リスク

「自由化」のイメージにぴったりくる新顔は結局、旧来の電力会社から調達しているからそれほど商品に違いが出るわけもない。もともと自社電源を持っていたエネルギー企業はそれなりの競争をしてくれると期待したくなるが、業界からはこんな声が聞こえてくる。

「JXは車ユーザーを自社スタンドに囲い込むために電力に参入しているだけ。ガス会社はいまは優勢に見えるが、それは単にガス自由化が電力自由化より遅れて不平等競争になっているから。ガス自由化後は、電力とガスは似たようなセット販売に落ち着くだろう」といった声が聞こえてくる。

 それではいったい何のための全面自由化なのだろうか。


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