2024年12月4日(水)

田部康喜のTV読本

2016年5月7日

 トットにチャンスがめぐってくる。ラジオドラマである。インドの王様から中国の皇帝に献上された三匹の高貴な子ザルの物語。作者の飯沢匡(大森南朋)は、それまで子役にやらせていた声を初めて、大人の女性にやらせようと考えた。東京放送劇団の団員だけではなく、外の劇団の団員も参加する、おそらく日本で初めてのオーディションをおこなった。

 三匹のサルの末弟である、トン坊役をトットは割り振られた。兄役のヤン坊とニン坊を繰り返し交代させながら、トットはトン坊のセリフを繰り返させられる。「ほかの役もやりたい!」というトット。オーディションが終了して、「またダメか」とつぶやく。

 しかし、トットに歩み寄った飯沢は、トン坊は彼女にやってもらうというのだった。トットは飯沢に歩み寄る。「私は日本語が変だし、話し方も変だといわれます。日本語も話し方も直しますから」という彼女に、飯沢はいう。

 「直すことはありません。あなたのそのままがいいんです」

 トットの目に涙がにじむ。

レクイエム(鎮魂歌)

 ラストは、賑やかに「買い物ブギ」と登場人物たちの乱舞である。

 第1回の重要な役である、養成の先生の大岡龍男は、俳人であり写生文の名文家としても知られ、私小説作家でもあった。脚本家の飯沢匡は、朝日新聞出身で、講和条約締結によって、日本が占領から独立した後を待って、原爆の被災地の悲惨な状況を写真誌「アサヒグラフ」に特集した編集長としても知られる。

 原作の黒柳の著作は、テレビばかりか芸能史を築き、亡くなった人々に対するレクイエム(鎮魂歌)でもある。ドラマはそれらの人々を生き生きとよみがえらせる。
 

  
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